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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

恋の和歌 心、恋、たったひとつ ― ふたつなき心は君におきつるをまたほどもなく恋しきやなぞ

本院の東の対の君にまかりかよひて、あしたに ふたつなき心は君におきつるをまたほどもなく恋しきやなぞ (拾遺集・恋二・大納言源きよかげ・721) 現代語訳 ふたつとない(私の)心は(あなたを愛するあまりに)あなたのもとに置いてきましたのに、(離れた…

恋の和歌 紅の花に染められたように、あなたを深く思っています ― 紅のはつ花染めの色ふかく思ひしこころ我忘れめや

くれなゐのはつ花染めの色ふかく思ひしこころ我忘れめや (古今集・恋歌四・題しらず・よみ人しらず・723) 現代語訳 紅花の、その紅色の初花で染めた色(のように心に)深く染められたこの恋を私が忘れることがあるでしょうか。(いいえ、忘れるはずがあり…

冬の和歌 何もない一年でしたけれど、過ぎてゆくのは惜しいものです ― 思ひ出もなくて過ぎぬる年なれど今日の暮るるは惜しまるるかな

思ひ出もなくて過ぎぬる年なれど今日の暮るるは惜しまるるかな (田多民治集・としのくれ・藤原忠通・111) 現代語訳 (特別な)思い出もなくて過ぎてしまった一年だけれども、大晦日の今日が暮れ(てこの一年が今日で終わ)るのは惜しく思われるものだな。 …

冬の和歌 冬の夜に迷う ― 空や海月や氷とさよちどり雲より波にこゑ迷ふなり

空や海月や氷とさよちどり雲より波にこゑ迷ふなり (千五百番歌合・冬二・藤原忠良・1919) 現代語訳 あの空と見えるものは海なのだろうか。(あの空に浮かぶ)月と見えるものは(海に浮かぶ氷)なのだろうかと、夜の千鳥が雲から波に、(あわれな)声をさま…

恋の和歌 好きだけど、その人についてまだなにも知らない ― まだしらぬ人をはじめて恋ふるかな思ふ心よ道しるべせよ

その人について、まだ何もしらない。どんな人なのか、どうしたら会えるのか、わからない。好きだけれど、手がかりがない。手がかりがないけれど、あなたに伝えたくて、会いたくて、あなたが好きだというこの思いだけがあなたとわたしをつないでいる、という…

恋の和歌 心、恋、ばらばらに ― きみ恋ふる心は千々にくだくれどひとつもうせぬものにぞありける

あまりに好きで、好きで心が壊れそうで、壊れて散ってなくなってしまったら忘れられるかと思ったのに、ただのひとつもなくなってくれずにわたしを苦しめ続ける。 もう心はとうに壊れているのです。壊れてしまって、そのばらばらになった心のかけらをじっと見…

冬の和歌 わたしは泣いているのでしょうか ― 恋もせず物もおもはぬ袖のうへに涙をながすはつしぐれかな

つらい恋をしているわけでもない、苦しい悩みを抱えているわけでもない、泣く必要など心のどこを探してもないはずのわたしが時雨の空を見つめて、その時雨がまるで涙のように袖を濡らしている。なぜ涙に見えるのか、自分でもわからないのです。華やかに寂し…

秋の和歌 人生で一番の思い出は?ときかれたら ― 秋をへて老となるまで馴れにけり月よりほかの思ひ出ぞなき

幾秋を経て老いの身となるまで(あの月に)親しんできました。(私の人生に何があったかと聞かれれば)月より他の思い出はない(と言ってもよいほどに)。

雑の和歌 友達が挨拶してくれなかったので つづき ― 玉桙のみちゆきずりに訪はずともつねに心はゆきかふものを

きのうのつづきなんですけれど、一言かけろよと言ってきた友人に返した歌です。連絡はしなかったけど友情はかわらないよ☆ みたいな返事。歌の内容については、いいです。このやりとりを歌でおこなったということが、現代には失われた人間関係の構築のしかた…

雑の和歌 友達が挨拶してくれなかったので ― 親しきも疎きもなしと聞きしかどわきてしもやは訪ふべかりける

親しいお坊さんがですね、自分の住んでいるところのとなりに来ていて、何の用か知らないですけど、来ているのに自分に何も言ってこなかったんです。うーん、この、この微妙な距離感。いや、となりに来たお坊さんからすれば、別にその友達に用があって来たわ…

雑の和歌 おとうさんといもうと(むずかしいお年ごろ) ― ひとりには塵をもすゑじひとりをば風にもあてじと思ふなるべし

おねえちゃんばっかりずるい! まあ、あるよねえ。お姉さんはもう就職しているのです。「内に侍るむすめ」ですから内裏にお仕えしているエリート女性です。内裏にお仕えするというのは支度だけでもけっこうなお金がかかるもので、あの十二単衣がまず高価。持…

夏の和歌 沢の水に星がうつっているかと思ったら蛍でしたよ ― 沢水に空なる星のうつるかと見ゆるはよはの蛍なりけり

宇治前太政大臣卅講ののち歌合し侍りけるに蛍を詠める沢水に空なる星のうつるかと見ゆるはよはの蛍なりけり (後拾遺集・夏・藤原良経・217) 現代語訳 沢の水に空の星が映っているかと見えたのは夜半に輝く蛍でしたよ。 内容解説 蛍、見たことがあるでしょ…

夏の和歌 あの山のむこうも、もうきっと日が暮れている ― ひぐらしの鳴く山かげは暮れぬらむ夕日かかれる峰のしら雲

ひぐらしの鳴く山かげは暮れぬらむ夕日かかれる峰のしら雲 (内裏百番歌合・夏・藤原知家・70) 現代語訳 ひぐらしの鳴く山陰は(もうそろそろ日が)暮れているようだ。夕日がかかっている峰の白雲(が茜いろに染まっているよ)。 内容解説 夏の夕暮れはよい…

夏の和歌 木の葉に雨がたたきつけられてセミの声が静かになる ― 蝉のこゑは風にみだれて吹きかへす楢の広葉に雨かかるなり

蝉のこゑは風にみだれて吹きかへす楢の広葉に雨かかるなり (風雅集・夏歌・夏の歌の中に・二品法親王尊胤・419) 現代語訳 (真夏の日差しが照りつける中、急に吹き下ろした冷たい風に)蝉の声は風に乱れて吹き返される。(にわかに空がかき曇ったかと思う…

夏の和歌 炎天下に風が止まるとどうしようもないよね ― 水無月の草もゆるがぬ日盛りに暑さぞしげる蝉のもろ声

水無月の草もゆるがぬ日盛りに暑さぞしげる蝉のもろ声 (拾玉集・日吉百首和歌・夏十首・426) 現代語訳 6月の(猛暑のころに頼りの風も止んでしまって)草ひとつそよがない炎天下に(じりじりと)暑さを増してゆく蝉の声々。 内容解説 旧暦と新暦は1ヶ月ほ…

夏の和歌 天使のはしごが露をつらぬく ― むら雲はなほ鳴る神のこゑながら夕日にまがふささがにの露

むら雲はなほ鳴る神のこゑながら夕日にまがふささがにの露 (後鳥羽院御集・正治初度百首・夏十五首・32・12世紀) 現代語訳 (雨がやんでも空を覆う)群雲はなお雷の音を響かせていながら西の空は雲が切れて夕日(が射し込みその光そのもの)と見間違えそう…

夏の和歌 夏、暑い、もう無理 ― いかにせん夏はくるしきものなれや衣かへても暑さまされば

いかにせん夏はくるしきものなれや衣かへても暑さまされば (天喜四年四月九日或所歌合・作者不明・2) 現代語訳 どうしたらいいのでしょう。夏は苦しいものですよ。(涼しいはずの)夏服に着替えても(涼しくなるどころか)暑さがます(ばかりな)ので(も…

海の和歌 夕べの波間に舟がゆれる ― 夕潮のさすにまかせてみなと江のあしまにうかぶあまのすて舟

夕潮のさすにまかせてみなと江の葦間にうかぶあまのすて舟 (玉葉集・雑二・題しらず・藤原頼景・2104) 現代語訳 夕べの潮が満ちるにまかせて港の葦の間に浮かんでいる海士の捨て舟。 内容解説 夕べの海の情景です。おだやかな、静かな波間に夕方の光がみち…

恋の和歌 ああよくあることだよねー笑 っていわれる温度差 ― 言へば世のつねのこととや人は見む我はたぐひもあらじと思ふを

言へば世のつねのこととや人は見む我はたぐひもあらじと思ふを (重之女集・恋廿首・89) 現代語訳 (あの人が好きですと)言葉にすれば、どこにでもある恋だと人は見るでしょうか。私にとっては何ものにも代えがたいただひとつの恋だと思っておりますのに。…

恋の和歌 A君はBさんが好きでBさんはC君が好きでどうにもならない ― 我を思ふ人をおもはぬむくいにや我が思ふ人の我をおもはぬ

我を思ふ人を思はぬむくいにや我が思ふ人の我をおもはぬ (古今集・雑体・俳諧歌・題しらず・読人知らず・1041) 現代語訳 私を愛してくれた人を(私が)愛さない報いなのだろうか、私の愛している人が私を愛してくれない(のは)。 内容解説 何という三角関…

雑の和歌 朝起きたくない、仕事に行きたくない日のこと ― 起きて今朝また何事をいとなまんこの夜あけぬとからす鳴くなり

朝の心を 起きて今朝また何事をいとなまんこの夜あけぬとからす鳴くなり (玉葉集・雑二・読人しらず・2141・14世紀) 現代語訳 「朝」という歌を(朝が来て)目が覚めて、今朝もまた(一日が始まったとて)いったい何をしようというのだろう。この夜も明け…

嘆きの和歌 言わなきゃよかった ― 思ふこと言はでぞただにやみぬべき我と等しき人しなければ

むかし、男、いかなりけることを思ひけるをりにかよめる。 思ふこと言はでぞただにやみぬべき我と等しき人しなければ (『伊勢物語』一二四段/ 引用元:新編日本古典文学全集 小学館) 現代語訳 むかし、ある男が、どんなことを思った時だったのだろうか、…

桜の和歌 花の上にやさしい雨がよりそう朝 ― ひらけそふ木ずゑの花に露みえて音せぬ雨のそそく朝あけ

春のあしたといふ事をひらけそふ木ずゑの花に露みえて音せぬ雨のそそく朝あけ (風雅集・春歌・進子内親王/女性・198) 現代語訳 次々と開いて数が増えてゆく梢の桜に(ちいさな)露が見えて(いると思ったら、そうではなくて)音もたてない(やわらかな)…

桜の和歌 花の上に、かすかな夕日が沈んでゆく ― 花のうへにしばしうつろふ夕づく日いるともなしに影きえにけり

夕花を花のうへにしばしうつろふ夕づく日いるともなしに影きえにけり (風雅集・春歌・永福門院/女性・199) 現代語訳 (夕方の光に照らされた)花の上にしばし揺らぎとどまる夕日(を見つめていたら)、いつ沈んだともわからないうちにふっと消えてしまい…

桜の和歌 空がゆっくり明るくなって、桜も紅に染まってゆく ― 時のまもえやは目かれむ桜花うつろふ山の春のあけぼの

時のまもえやは目かれむ桜花うつろふ山の春のあけぼの (為家集・春・藤原為家/男性・140) 朝見花さしのぼる日影をそへて紅の色にうつろふ花ざくらかな (為家集・春・藤原為家/男性・163) 現代語訳 ほんの一瞬でも目を離すようなことができるだろうか(…

桜の和歌 夜明けの月、桜が舞い踊る ― 山たかみ嶺のあらしに散る花の月に天霧るあけがたの空

百首歌たてまつりし春歌山たかみ嶺のあらしに散る花の月に天霧るあけがたの空(新古今集・春歌下・二条院讃岐/女性・130・12世紀) 現代語訳 百首の歌を詠んで献上した時に詠んだうちの、春の歌山が高いので(風は)嶺をかけめぐる嵐(のよう)に(吹き荒れ…

恋の和歌 雨のしずくが落ちるように、あなたを思い続けています ― 雨やまぬ軒の玉水かずしらず恋しき事のまさるころかな

人につかはしける雨やまぬ軒の玉水かずしらず恋しき事のまさるころかな (後撰和歌集・恋一・平兼盛/男性・578・10世紀) 現代語訳 (思いを寄せている)女性に贈った歌雨がやまない(日の、私の家の)軒先から宝石のように透きとおった雨水が数えきれない…

春の和歌 恋は春の霞のように ― おもひあまりそなたの空をながむればかすみをわけて春雨ぞふる

春のころしのぶる事ある女のもとにつかはしけるおもひあまりそなたの空をながむればかすみをわけて春雨ぞふる (長秋詠藻・藤原俊成/男性・328) 現代語訳 春のころ、秘密の恋人である女性のもとに贈った(歌)(あなたを恋しいと)思う気持ちのあまりにあ…

梅の和歌 夜の戸を開けたら、そこは梅の世界でした ―真木の戸をあけて夜深き梅が香に春のねざめをとふ人もがな

真木の戸をあけて夜深き梅が香に春のねざめをとふ人もがな (続拾遺集・春上・題しらず・藻璧門院少将/女性・48・13世紀) 現代語訳 (ある春の晩にふと目が覚めて、何かに誘われるように外に出ようと)戸を開けると、そこはまっくらな夜の中、一面の梅の香…

春の和歌 冬来たりなば、春遠からじ ― 花をのみ待つらん人に山里の雪間の草の春を見せばや

若草花をのみ待つらん人に山里の雪間の草の春を見せばや (壬二集・六百番歌合・藤原家隆・304・12世紀) 現代語訳 若草(を詠んだ歌)(まだ花が咲かない春が来ないと)待っているだろう人に、山里に積った雪のあいだにわずかに芽吹いた若草にも春は来てい…

雪の和歌 あなたでなくて、誰のことを想いましょうか ― 君ならでたれをか訪はむ雪のうちに思ひいづべき人しなければ

十一月四日に、雪のはじめて降り侍りしに、 中将隆房のもとへ申しつかはしし君ならでたれをか訪はむ雪のうちに思ひいづべき人しなければ (有房集・244・12世紀) 現代語訳 11月4日に、雪がはじめて降りました時に、 中将隆房のもとへ申し上げるとお送りした…

冬の和歌 今年もまた終わりだと思うと、過ぎていった日々がたまらなく惜しく思われます ― 今年また暮れぬと思へばいまさらに過ぎし月日の惜しくもあるかな

百首歌たてまつりし時 今年また暮れぬと思へばいまさらに過ぎし月日の惜しくもあるかな (風雅集・冬歌・関白右大臣・896) 現代語訳 百首歌を献上したとき(詠みました歌)今年もまた暮れてゆくと思えば、今さらの事ながら、過ぎた一日一日が名残惜しく思わ…

冬の和歌 薄氷と泡 ― 消えかへり岩間にまよふ水の泡のしばし宿借るうす氷かな

消えかへり岩間にまよふ水の泡のしばし宿借るうす氷かな(新古今集・冬歌・題しらず・藤原良経・632・12世紀) 現代語訳 (川の流れに渦巻いて)生まれては消え、消えては生まれ、岩のあいだを行き迷う水の泡が、わずかひとときとどまる(氷さえもかすかに薄…

冬の和歌 冬の朝はおふとんから出ないぞ! ― 冬さむみ霜さゆる夜も明けぬれどあさぶすまこそぬがれざりけれ

冬さむみ霜さゆる夜も明けぬれどあさぶすまこそぬがれざりけれ (永久百首・冬十二首・衾・顕仲・386) 現代語訳 冬の寒さのせいで霜が冴え冴えと冷える夜も(ようやく)明け(て、少しはあたたかくなっ)たけれど、朝のふとんを脱ぐなんてことは絶対にでき…

冬の和歌 平安時代のあったかアイテム ― 身をしればあはれとぞ思ふうづみ火のあるかなきかの暁のそら

身をしればあはれとぞ思ふうづみ火のあるかなきかの暁のそら (公衡集・賦百字和歌七月九日午時以後三時詠之・うづみ火・69) 現代語訳 (炭火だけでなく、私の)身もまたはかないものと知っているから、(我が身に添えて)心にしみる。(一晩中燃やされて)…

冬の和歌 平安時代のあったかアイテム ― つひにみな消えなむことを思ひしるあかつきがたのうづみ火のかげ

つひにみな消えなむことを思ひしるあかつきがたのうづみ火のかげ (公衡集・賦百字和歌七月九日午時以後三時詠之・うづみ火・68) 現代語訳 (そうはいっても)最後には全て消えてしまうと思い知るのです。(この一晩をあたためてくれて朝を迎えた)明け方の…

冬の和歌 平安時代のあったかアイテム ― うれしくも友となりつつうづみ火の明け行く空になほ残りける

うれしくも友となりつつうづみ火の明け行く空になほ残りける(公衡集・賦百字和歌七月九日午時以後三時詠之・うづみ火・67) 現代語訳 (冬の夜、)嬉しいことに、一晩中友だちとして寄り添っていた(炉火のわずかな)残り火が、(翌朝)ほのぼのと明けゆく…

秋の和歌 秋の色の、面影だけでも残るでしょうか - 心とめて草木の色もながめおかん面かげにだに秋や残ると

暮秋十首歌たてまつりし時 心とめて草木の色もながめおかん面かげにだに秋や残ると (玉葉集・秋・京極為兼/男性・832・14世紀) 現代語訳 暮秋の十首歌を献上した時(に詠んだ歌) (木々は紅葉に黄葉に、野の草は色とりどりに秋を盛りと咲いている。この景…

哀傷の和歌 あなたはもう、この世のどこにもいないのですね ― うつくしと思ひし妹を夢に見て起きてさぐるになきぞかなしき

うつくしと思ひし妹を夢に見て起きてさぐるになきぞかなしき (拾遺集・哀傷歌・題しらず・よみ人しらず・1302) 現代語訳 (あなたが死んで、あれから幾日たったのでしょうか。誰よりも)愛したあなたを夢に見て、(あなたはまだそこにいたのかと目が覚めて…

秋の和歌 花だけが咲く秋の庭 ― あるじなき庭の千草の花盛りいかばかりかは秋は悲しき

あるじなき庭の千草の花盛りいかばかりかは秋は悲しき (現存和歌六帖・秋のはな・前大納言基良・447) 現代語訳 (家の)主がいなくなったこの庭の千草の花も(秋を迎えて今を)盛り(と咲き乱れている)。ああ、どれほど秋は悲しいことか。 内容解説 秋の…

秋の和歌 露に濡れても ― 秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜はふけぬとも

秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜はふけぬとも (万葉集・秋相聞・寄露・よみ人しらず・2252) 現代語訳 秋萩の咲き散る野辺の、(花や葉に置く)夕露に濡れながら私の家まで来てください。夜はふけて(暗くなって)しまったとしても。 内容解説 恋歌…

秋の和歌 秋のもの思いそれぞれ ― 草木まで秋のあはれをしのべばや野にも山にも露こぼるらん

草木まで秋のあはれをしのべばや野にも山にも露こぼるらん (千載集・秋歌上・題しらず・慈円・263) 現代語訳 (人が秋のあはれに心動かされるのはあたりまえのことだけれども、心を持たないはずの)草木まで秋のせつなさに心を寄せているから、野にも山に…

秋の和歌 月の夜に、何を思い残すことがあるでしょうか ― ひとりゐて月を眺むる秋の夜はなにごとをかは思ひ残さん

ひとりゐて月を眺むる秋の夜はなにごとをかは思ひ残さん (千載集・雑上・具平親王・983) 現代語訳 ひとり座って月を眺める秋の夜のもの思いには、いったい何を思い残すことがあるでしょうか(いや、あらゆる物思いをし尽くしてなお飽き足らないまま秋の夜…

嘆きの和歌 いい事なんて、何ひとつなかった ― 待つことのあるとや人の思ふらん心にもあらでながらふる身を

としごろ沈みゐてよろづを思ひ嘆きてはべりけるころ 待つことのあるとや人の思ふらん心にもあらでながらふる身を (後拾遺集・雑三・藤原兼綱/男性・983) 現代語訳 長年落ちぶれて全てを思い嘆いておりましたころ(これほど絶望に満ちた人生を送っている私…

秋の和歌 秋の月、水の輝き ― 石ばしる水のしら玉かず見えて清滝川にすめる月影

百首歌召しける時、月のうたとて詠ませ給うける石ばしる水のしら玉かず見えて清滝川にすめる月影 (千載集・秋歌上・藤原俊成・284) 現代語訳 百首歌を提出させなさった時、月の歌という歌題で お詠ませになった (歌)石の上を走り流れる水(の真珠のよう…

恋の和歌 風邪をひいたのに彼氏が見舞いに来なかった話 ― 死出の山ふもとを見てぞ帰りにしつらき人よりまづ越えじとて

心地損なへりけるころ、あひ知りて侍りける人の訪はで 心地おこたりてのちとぶらへりければ、詠みてつかはしける 死出の山ふもとを見てぞ帰りにしつらき人よりまづ越えじとて (古今集・恋歌五・兵衛/女性・789・9世紀) 現代語訳 (私が)病気をしていたこ…

秋の和歌 もの思いの限りを尽くす秋 ― 木のまより洩り来る月の影見れば心づくしの秋は来にけり

木のまより洩り来る月の影見れば心づくしの秋は来にけり (古今集・題しらず・よみ人しらず・184) 現代語訳 木々の枝葉からもれこぼれてくる(秋の)月の(玲瓏たる)光を目にすると、ああ今年も秋が、物思いの限りを尽くす秋が来たのだなあ(と思われる)…

夏の和歌 夏の納涼、ふたり連れ ― みそぎする賀茂の河風吹くらしも涼みにゆかん妹をともなひ

みそぎする賀茂の河風吹くらしも涼みにゆかん妹をともなひ (好忠集・六月中・曽祢好忠/男性・174・10世紀) 現代語訳 六月祓をする賀茂の川風が(涼しく)吹いているようだ。涼みに行こう。妻といっしょに。 内容解説 前回と、前々回の続き。ごろごろだら…

夏の和歌 夏の夕暮れ、まどろみの時 ― 入り日さしひぐらしの音を聞くからにまだきねぶたき夏の夕暮れ

入り日さしひぐらしのねを聞くからにまだきねぶたき夏の夕暮れ (好忠集・六月をはり・曽祢好忠/男性・161・10世紀) 現代語訳 (だらだら昼寝をしていたらいつのまにか)夕日が部屋に射しこむ時間になって、ひぐらしの声を聞いたらやっぱりまだねむたい(…

夏の和歌 夏の午後、まどろみの午後 ― 妹とわれ寝屋の風戸に昼寝して日たかき夏のかげをすぐさむ

妹とわれ寝屋の風戸に昼寝して日たかき夏のかげをすぐさむ (好忠集・六月終はり・曽祢好忠/男性・178・10世紀) 現代語訳 (暑い日は)妻とわたしと寝室の(涼しい)風が通る戸の近くで昼寝をして、(だらだらと)日の高いあいだの夏の暑さをやりすごそう…