冬歌(Winter)
思ひ出もなくて過ぎぬる年なれど今日の暮るるは惜しまるるかな (田多民治集・としのくれ・藤原忠通・111) 現代語訳 (特別な)思い出もなくて過ぎてしまった一年だけれども、大晦日の今日が暮れ(てこの一年が今日で終わ)るのは惜しく思われるものだな。 …
空や海月や氷とさよちどり雲より波にこゑ迷ふなり (千五百番歌合・冬二・藤原忠良・1919) 現代語訳 あの空と見えるものは海なのだろうか。(あの空に浮かぶ)月と見えるものは(海に浮かぶ氷)なのだろうかと、夜の千鳥が雲から波に、(あわれな)声をさま…
つらい恋をしているわけでもない、苦しい悩みを抱えているわけでもない、泣く必要など心のどこを探してもないはずのわたしが時雨の空を見つめて、その時雨がまるで涙のように袖を濡らしている。なぜ涙に見えるのか、自分でもわからないのです。華やかに寂し…
十一月四日に、雪のはじめて降り侍りしに、 中将隆房のもとへ申しつかはしし君ならでたれをか訪はむ雪のうちに思ひいづべき人しなければ (有房集・244・12世紀) 現代語訳 11月4日に、雪がはじめて降りました時に、 中将隆房のもとへ申し上げるとお送りした…
百首歌たてまつりし時 今年また暮れぬと思へばいまさらに過ぎし月日の惜しくもあるかな (風雅集・冬歌・関白右大臣・896) 現代語訳 百首歌を献上したとき(詠みました歌)今年もまた暮れてゆくと思えば、今さらの事ながら、過ぎた一日一日が名残惜しく思わ…
消えかへり岩間にまよふ水の泡のしばし宿借るうす氷かな(新古今集・冬歌・題しらず・藤原良経・632・12世紀) 現代語訳 (川の流れに渦巻いて)生まれては消え、消えては生まれ、岩のあいだを行き迷う水の泡が、わずかひとときとどまる(氷さえもかすかに薄…
冬さむみ霜さゆる夜も明けぬれどあさぶすまこそぬがれざりけれ (永久百首・冬十二首・衾・顕仲・386) 現代語訳 冬の寒さのせいで霜が冴え冴えと冷える夜も(ようやく)明け(て、少しはあたたかくなっ)たけれど、朝のふとんを脱ぐなんてことは絶対にでき…
身をしればあはれとぞ思ふうづみ火のあるかなきかの暁のそら (公衡集・賦百字和歌七月九日午時以後三時詠之・うづみ火・69) 現代語訳 (炭火だけでなく、私の)身もまたはかないものと知っているから、(我が身に添えて)心にしみる。(一晩中燃やされて)…
つひにみな消えなむことを思ひしるあかつきがたのうづみ火のかげ (公衡集・賦百字和歌七月九日午時以後三時詠之・うづみ火・68) 現代語訳 (そうはいっても)最後には全て消えてしまうと思い知るのです。(この一晩をあたためてくれて朝を迎えた)明け方の…
うれしくも友となりつつうづみ火の明け行く空になほ残りける(公衡集・賦百字和歌七月九日午時以後三時詠之・うづみ火・67) 現代語訳 (冬の夜、)嬉しいことに、一晩中友だちとして寄り添っていた(炉火のわずかな)残り火が、(翌朝)ほのぼのと明けゆく…