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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

恋の和歌 逢うほどに苦しいから ― あひ見てはなぐさむやとぞ思ひしを名残しもこそ恋しかりけれ

恋歌(Love) 大学受験によく出る古典文法
あひ見てはなぐさむやとぞ思ひしを名残しもこそ恋しかりけれ
     (拾遺集・恋二・題しらず・坂上是則・711・10世紀)

English(英語で読む)

 

現代語訳

(あなたに)逢ってみたら(今までのつらい気持も)慰められるだろうと思ったのに、(あなたに逢った)その思い出がまた恋しく(も、わたしを苦しめ)てたまらないのですよ。

 

内容解説

前回〈夢ならば、逢わなければよかった〉の続き。「あひ見る」つながり。逢ったあとのうだうだつながり。「なごりしもこそ」という響きにひそむ、断ち切れない執着心。
「名残しもこそ」、品詞分解すると「なごり/し/も/こそ」です。「し」は強意の副助詞。「も」は強意の係助詞。「こそ」は強意の係助詞。「名残」が「恋しい」と言うだけのことに3つも強意をつけている。これをどう、現代語に(そして英語に)訳したものか。あなたと逢った、そして今は目の前にいないあなたの記憶のひとかけらもこぼすまいとたぐり寄せる強い執着心。「名残」から、「恋しい」と言うまでに揺れ動くためらいの長さ。
これは形式のなせるわざです。5・7・5・7・7という形式が、うるさいまでの3重の強意をなだらかにつないでいる。ふつうのセリフにしたらだいぶ重いのではないでしょうか。

 

部立に「恋二」とありますが、恋歌はどれも、好きになり始めてからつきあって、そして気持が離れて別れるまでの時間の経過ごとに並んでいます。『拾遺集』には恋一から恋五まであるので、恋二はようやく踏み込んだあたり。口説く歌を詠むのは男性側。きれいなお姫様がいると聞いてあの手この手で口説き落として、顔を見て手をつないでそれから。そして家に帰ってきた。ようやく逢えて、これで気持が落ち着くかと思ったらそれどころかますます恋しさがつのってたまらない。

 

前回の「夢よ夢恋しき人にあひ見すなさめてののちにわびしかりけり」は、夢の中に恋人と逢って目覚めたむなしさを詠んでいました。この歌は実際に恋人に逢った後につのる思いを詠んでいます。どっちにせつらいんですね。がんばれ。

 

苦しい和歌

夏、暑い、もう無理 ― いかにせん夏はくるしきものなれや衣かへても暑さまされば

A君はBさんが好きでBさんはC君が好きでどうにもならない ― 我を思ふ人をおもはぬむくいにや我が思ふ人の我をおもはぬ

言わなきゃよかった ― 思ふこと言はでぞただにやみぬべき我と等しき人しなければ

 

古典文法解説と品詞分解は、以下をご覧ください。

 

古典文法解説


―上一段動詞「見る」・係助詞「や・ぞ・も・こそ」・助動詞「し」・副助詞「し」・なぐさむ

 

Q 「あひ見て」の品詞分解はどうなりますか?

A 「あひ見/て」です。こちらはマ行上一段動詞「あひ見る」の連用形。前回は夢に対して「見せるな」と頼んでいたから他動詞。今回は自分が「見る」から自動詞です。

 

Q 係助詞「や・ぞ・も・こそ」について

A 強意の助詞のもつ執着心とやらにひたっておきながら、これは文法説明をするチャンスだぞと思うあたり、わけもわからず純真に和歌を読みあさっていた日々は遠くなったものだと我ながら思いますが、言葉は一語一句からできているものである以上、一語一句おろそかにしてはならないのです。

で、係助詞の話。助詞はたくさんあります。どれも覚えてほしいのですが、どこから勉強するかと聞かれればまず係助詞を勧めます。係助詞全ての意味と係り結びの法則、次に副助詞「だに・すら・さへ」の意味、副助詞「し」のサ変動詞と過去の助動詞との見分け方、終助詞「ばや・なむ・(な)~そ」の意味と見分け方、格助詞「が・の」の意味と同格、接続助詞「ば」の順接逆接の見分け方。他はいらないというわけではないですが、絞るとしたらこのあたりではないでしょうか。とりあえず。

 

A 「なぐさむや」
これは疑問の係助詞「や」です。係助詞の中でも「や・やは・か・かは」は疑問・反語の意味を持ちます。現代語訳に直結するので気をつけたいところ。「や」ときたら疑問の係助詞か、呼びかけ・詠嘆・列挙の間投助詞です。詠嘆は「おお~」と感動すること。まずは疑問で現代語訳を作って、前後の文章と矛盾しなければ決まり。疑問ではおかしいと思えば呼びかけか詠嘆か列挙。列挙と呼びかけは見た感じわかるのではないかと。「あれやこれや」が列挙。「嬢ちゃんや」が呼びかけ。
疑問で「なぐさめられるか」と訳して、「とぞ思ひしを」、「と思ったのに」と後半つながりますからここは疑問で訳せます。疑問に決めたらもう一歩踏み込んで、反語でないか考えましょう。「なぐさめられるか(いやなぐさめられない)」ではおかしい。ここは疑問の係助詞で決まり。
「『なぐさむや』とぞ」という引用形ですから、文末に付く詠嘆の終助詞の「や」という考え方もあると文法の教科書に書いてあるかもしれませんが、気にしなくてよいです。詠嘆で解して「なぐさむや(ため息)」としても通じるという意味です。受験生としては、記憶の負担が大きい。

 

A 「とぞ思ひしを」
これは強意の係助詞「ぞ」。係り結びを起こして「思ひ/し」となっています。「し」は過去の助動詞「き」の連体形でした。

 

A 「名残しも」
「しも」で古語辞典にあるかもしれません。副助詞の「し」と強意の係助詞「も」のセットで、ともに強意をあらわします。「しも」の形で覚えておくとよいです。ひとつづつ分解して考えていたら試験時間が終わります。助詞はふたつセットで使われやすいパターンがしばしばあって、その場合セットの「しも」の形で古語辞典に載っています。ですから、助詞らしきものがふたつ並んでいたら、その形のまま古語辞典を引きましょう。
記憶容量に余裕があったら①強意・限定 ②(打消しの語を伴い)必ずしも~ではない ③~にもかかわらず の意味も覚えておきましょう。
「恋しかりけれ」の「けれ」は「こそ」の結びであって、「も」の結びではありません。

 

A 「こそ恋しかりけれ」
一番わかりやすい係助詞ではないでしょうか。強意の「こそ~けれ」と係り結びを起こしています。「こそ」の係り結びは已然形でした。
品詞分解は「こそ/恋しかり/けれ」です。「恋しかり」で一語です。形容詞のカリ活用というものがありましたね。文法の教科書で形容詞をひきましょう。連用形に接続する過去の助動詞「けり」がついているので、カリ活用の連用形「恋しかり」のかたちになります。

 

Q 助動詞「し」と、副助詞「し」

A 「思ひしを」は過去の助動詞「き」の連体形。「名残しも」は副助詞。「し」にはサ変動詞「す」の連用形もあります。これの見分けはたいへんに迷うと思います。文法の教科書の後ろに「まぎらわしい語の一覧」のようなページがあると思いますが、実に歯切れの悪い説明が書いてあって、では教科書を書いている人もわかっていないのかというとそうではなくて、古文を読み慣れた人には瞬時に見分けがつく。ただし説明するのは難しい、といったところでしょうか。副助詞はなくても意味が通じる、なんていわれてもね。過去の助動詞「き」のように連用形接続だとわかっていればともかく、副助詞「し」のようにどんな語にも接続してしまう言葉は、それが副助詞ではないという論証が難しいのですが、参考までに私の頭の中をそのまま公開します。一助として、どうぞ。

さきに、助詞はセットで用いられるパターンがあるとお話ししましたが、助詞の見分けかたのひとつとして、「しも」の形で古語辞典を引くという方法があります。「しも」だから副助詞でしょ、とななこは判断しました。試験中には使えませんが、自宅で勉強する際には役に立ちます。前後の言葉と一緒に古語辞典を引けば一発で答えが出るパターンです。「しも」の形で覚えてしまいましょう。とはいえ、「しも」だから副助詞+係助詞とも限らない。

 

(2015/03/26追記)いくつか、「しも」の例を挙げておきます。助動詞の「し」なら連用形接続ですが、副助詞の「し」も余裕で連用形につきます。副助詞の「し」はなくても意味が通じるという意味、伝わるでしょうか。

助動詞の例

「思ひ(動詞/連用)/し(助動詞)/も(係助詞)」

「思し(おぼし:尊/動詞/連用)/し(助動詞)/も(係助詞)」

「給ひ(尊/動詞/連用)/し(助動詞)/も(係助詞)」

「給へ(謙/動詞/連用)/し(助動詞)/も(係助詞)」

※尊敬の「給ふ」は四段活用、謙譲の「給ふ」は下二段活用。

「過ぎ(動詞)/に(完/助動詞/連用)/し(助動詞)/もの(名詞)/の(格助詞)」

副助詞の例

「氏(名詞)/を(助詞)/も(係助詞)/継ぐ(動詞)/べき(助動詞/連体)/し(副助詞)/も(係助詞)、/かく(副詞)/あれ(動詞)/ば(助詞)」(「べき」は「も」の係り結びの連体形)

「書き(動詞)/給へ(尊/動詞/已然)/る(完/助動詞/連体)/し(副助詞)/も(係助詞)/御手(名詞)」(「る」は「御手」に接続する連体形)

「あながちに(形容動詞/連用)/し(副助詞)/も(係助詞)、/まだき(副詞)/に(助詞)」(「あながちに」は連用中止法の連用形)

「思し(動詞)/焦ら(動詞)/るる(尊/助動詞/連体)/に(断/助動詞/連用)/し(副助詞)も(係助詞)/あら(動詞)ね(助動詞)ど(助詞)」(「に」は「あり(ある)」に接続する連用形)

伝わりましたか。副助詞「し」のために、前の言葉は活用しません。副助詞「し」(セットの係助詞も含む)を飛ばした次の言葉に接続するために活用します。上の単語が、「し」を飛ばした下の単語に接続するようなら、その「し」は副助詞かもしれません。

それ以外

「さしも(副詞)」

(「しも」の用例は、「氏をも継ぐべきしも」は新編日本古典文学全集『宇津保物語』小学館、それ以外は新編 日本古典文学全集『源氏物語小学館から引用。Japan Knowledgeで検索。)

 

さて次。

「思ひし」は、動詞の下に付いてるから助動詞でしょ、と判断しました。助動詞は基本的に、動詞か、形容詞か、形容動詞か、他の助動詞(「にけり」みたいな)にしかくっつきません。例外は断定の「なり・たり」、比況の「ごとし」だけです。これは体言(名詞)にも付くことがあります。ただ、これも万能ではなくて、たとえばサ変動詞「す」は複合語を作ります。「死す」とか「旅す」とか。ですから、「死して名を残す」の「し」はサ変動詞「死す」の連用形活用語尾です。動詞の下に付く「し」のように見えても助動詞ではありません。これだと動詞の下の「し」だから助動詞だとは言えません。
活用語なら、その形で活用させてみるというのもひとつの方法だと思います。「思ひし」「思ひき」「思ひしか」と過去の助動詞として活用させて、違和感がないかどうか。「思ひし」「思ひき」「思ひしか」、これはありうる。「名残し」「名残き」「名残しか」。「名残き」はおかしいんじゃないでしょうか。といっても違和感があるかどうかなんて慣れるまでは判断できません。副助詞であるかどうかを証明するより、サ変動詞でも過去の助動詞でもないことを証明できるようになってください。それもまあ、難しいとは思いますが。

 

正直なところ、慣れるまでは自分で品詞分解をやらなくてもいいとわたしは思います。面倒だし、嫌いになるし。できる限り考えるのは立派なことですが、これ以上考えたら嫌いになると思ったら、もうやらない。語学は復習です。とにかく復習。正解を見て慣れることです。これが副詞の「し」、これが過去の助動詞の「し」、これがサ変動詞の「し」と、正解がわかったものを何度も復習して慣れることです。というわけで、「しも」の用例を大量に挙げました。
ななこも最初のころはとても苦労しながら品詞分解をやっていました。あるとき詳しい品詞分解が載っている参考書を買ってきて、答えを見ながら考えたらあっさり理解できるようになりました。答えを見ましょう。答えを見てからなぜそうなるのかを考えましょう。答えを知ってからが勝負です。そして、たまには答えを見る前に文法の教科書と古語辞典を引いてみましょう。

 

Q 「なぐさむ」は「なぐさめられる」と受身の形で訳する。

A 四段活用の自動詞ですから。古語辞典を引いてください。古語の「なぐさむ」には四段活用自動詞と下二段活用他動詞があります。あるんです。めんどくさがらないで聞いてください。現代語には他者を「なぐさめる」という他動詞の形しか残っていない。しかし、ここでは他者をなぐさめる、ではなく、自分がなぐさめられる、ですから、受身の助動詞を補って訳してください。などと言われて、自動詞ってなんだっけと思った方、さっそく文法の教科書か古語辞典で調べてください。古語辞典ならどこかにまとめて文法用語の説明があるはずです。説明されてわからなかった箇所をすぐに調べる、これ大事な勉強です。


文法説明はこれでおしまい。前回の歌が『拾遺集』709、今回の歌が『拾遺集』711でした。その間にあるのが『拾遺集』710です。『百人一首』にも撰ばれた、聞き覚えのある歌ではないでしょうか。
あひ見てののちの心にくらぶれば昔は物もおもはざりけり
     (拾遺集・恋二・題しらず・権中納言敦忠・710)

 

品詞分解

マ行上一段活用動詞「あひ見る」の連用形/接続助詞/係助詞/
あひ見/て/は/

マ行四段活用動詞「なぐさむ」の終止形/係助詞
なぐさむ/や

格助詞/係助詞/ハ行四段活用動詞「思ふ」の連用形/
と/ぞ/思ひ/

過去の助動詞「き」の連体形/格助詞/名詞/副助詞/係助詞/
し/を/名残/し/も/

係助詞/カリ活用の形容動詞「恋し」の連用形/
こそ/恋しかり/

過去の助動詞「けり」の已然形/
けれ/