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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

桜の和歌 私が死んだら、桜の花を供えてください ― 仏にはさくらの花をたてまつれわがのちの世を人とぶらはば

  花のうたあまたよみ侍りける時
仏にはさくらの花をたてまつれわがのちの世を人とぶらはば
     (千載集・雑歌・西行/男性・1067・12世紀)

 

現代語訳

  花の歌をたくさん読みましたとき(に詠んだ歌)
(わたしが死んだら、)仏となった私に桜の花を供えてほしい。わたしの後世を誰か弔ってくれるならば。

 

内容解説

西行。中世の巨匠。若くして出家し、歌と旅と桜のために生きて死んだ歌人。あの後鳥羽院に、「生得の歌人とおぼゆ。(略)おぼろけの人、まねびなどすべき歌にあらず。不可説の上手なり。」と言わしめた男。(『後鳥羽院御口伝』)その西行が、私が死んだあとに私のことを思ってくれるなら、ただ桜の花を供えてほしいと言う。自分が死んでも、自分と同じように桜を愛する人がいるならば、わたしの後世を桜の花で弔ってくれ。

 

「たてまつれ」と誰に言っているのかといえば、わたしたちに言っているんでしょう。西行の後世を弔ってくれる人、ふつうに考えれば西行の子孫なのでしょうが、西行は出家者なので俗世の人間関係とは縁を切っています。特に誰をさして言っているわけではなく、自分を思い出してくれる人に頼んでいるのでしょう。西行の後世を弔い桜の花を手向ける人は、きっと彼と同じように桜を愛する人だから。


○ここから先はちょっと深読み○
鳥羽院から中世和歌の桜を4首連続でご紹介してきましたが、その最後に西行を置きました。鳥羽院は〈のちの春をばいつか見るべき〉、弁内侍は〈ながらへて生けらばのちの〉、覚性入道親王は〈うき世はたれも心ならねば〉でした。この全てに通底するのが、人の身ははかないもの、人生は一度きりという考え方です。それに対して今回の西行は「わがのちの世を人とぶらはば」。自分が死んだ後に生きているであろう人に桜を託している。

 

なぜ人は和歌を読んだのか、などと言い出すと収拾がつかないのでやめますが、自分が詠んだ歌を後世の人が読む、という事を想定してこの歌は詠まれています。この考え方は最初の勅撰和歌集である『古今集』の仮名序にも、後世の人々に対して「歌のさまをも知り、事の心を得たらむ人は、大空の月を見るがごとくにいにしへを仰ぎて、今を恋ひざらめかも。(歌を知り、物事を理解している人は、大空の月を仰ぎ見るように昔の(天地開闢から今まで)和歌を仰ぎ、今の(編纂時のことですね。醍醐天皇の時代です)和歌を恋い慕わないだろうか。いや、恋い慕うに違いない)」と宣言されている。
まあ、史上初めての勅撰和歌集を編纂するにあたってだいぶ力を入れすぎた感はありますが、それでも彼らが数百年数千年のちの私たちをも見据えて歌を作っていたということは、その数百年数千年のちを生きる私たちも知っていてよいことではないかと思います。時は流れ時代は移り彼を知る人が皆いなくなったとしても、西行が桜を愛したというその思いだけは歴史の中に永遠に残り、自分が死んでも自分と同じように桜を愛する誰かがどこかにきっといる。だから、その人に向けてこの歌を詠んだということを。

(『後鳥羽院御口伝』は『歌論歌学集成』第7巻 三弥井書店 2006による)

 

古典文法説明

「奉る」・倒置法・未然形+「ば」

Q 謙譲語「たてまつれ」は誰に対する敬意ですか。

A これは仏に対する敬意です。自分が仏になったらという将来のことを指していますから自分に敬意ということではないです。なんか、上から目線に聞えますが。「奉る」と書きます。文法の教科書の謙譲語のページを開きましょう。「さしあげる」「~し申し上げる」が基本の意味です。

余裕があれば、尊敬語の「たてまつる」も見ておいてください。「召し上がる」「お乗りになる」「お召しになる」といった意味が書いてあります。尊敬語のほうが、現代語から推測しにくいので難しいかもしれません。

ついでなのでもうひとつ。自敬表現、というものがあります。
自分が仏になるという話ではなくて、ほんとうに自分が高貴な存在だと思っているから自分に敬語を使っています。文法の教科書の、敬語の項目の最後のあたりに載っていると思います。天皇上皇といった極めて身分の高い人に限って使われる用法です。

 

Q 倒置法

A 「わがのちの世を人とぶらはば、仏にはさくらの花をたてまつれ」の語順です。

 

Q 未然形+接続助詞「ば」

A 「とぶらは」という未然形についている接続助詞の「ば」ですから、仮定です。自分が死んだ後の話ですから、弔ってくれるかどうかわからないけれど、もし「弔ってくれるならば」という意味です。已然形なら「とぶらへば」となります。これなら「弔うと」という意味になります。

 

品詞分解

  名詞/格助詞/名詞/名詞/マ行四段活用動詞「よむ」の連用形/
  花/の/うた/あまた/よみ/

  ラ行四段活用動詞「はべる」の連用形/過去の助動詞「けり」の連体形/名詞
  侍り/ける/時

名詞/格助詞/係り助詞/名詞/格助詞/ラ行四段活用動詞「たてまつる」の命令形/
仏/に/は/さくら/の/花/を/たてまつれ/

名詞/格助詞/名詞/格助詞/名詞/格助詞/名詞/
わが/のち/の/世/を/人/

ハ行四段活用動詞「とぶらふ」未然形/接続助詞
とぶらは/ば