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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

恋の和歌 あなたの影になりたい ― 恋すればわが身は影となりにけりさりとて人に添はぬものゆゑ

恋すればわが身は影となりにけりさりとて人に添はぬものゆゑ
  (古今和歌集・恋歌一・題しらず・読人しらず・528・10世紀)

 

現代語訳

(あなたに)恋をしたせいで、私は影のように(やせ細って弱々しく)なってしまいました。だからといって(影のように)あなたのそばに寄り添っていられるわけではないのに。(影のようにやつれるくらいならば、影のようにあなたのそばにいたいのに)

  

内容解説

「ものの・ものを・ものゆゑ・ものから」、どれも逆説の接続助詞です。「~ではないのに」と覚えてください。特に「ものゆゑ」は理由を表す「~ゆゑに」と勘違いしやすいので、覚えておいてください。そんなに多用される語ではありませんが、文章中にあればついつい出題したくなる言葉です。

 

で、恋をしたそうです。「影となりにけり」ですが、影のようにやつれて死にそうに痩せている、くらいの意味です。生気がないといったニュアンスもあるのかもしれません。片思いの歌ですね。『古今集』の恋歌は恋一から恋五まで、片思いから破局までの順に並んでいます。これは片思いの歌。まだ告白もしていないころの気持です。
「題しらず」は、詠まれた状況がわからない歌という意味です。なので、ひとり悩んでいる歌なのか、この歌自体が告白の歌だったのかはわかりません。「読人しらず」はそのまま作者不明ということですが、片思いの歌を詠むのは男性というジェンダーが和歌にはあります。実際には男女を問わず片思いをしていたのでしょうが、片思いや告白の歌を作るのは男性側です。ですので、これは片思いでご飯が喉を通らない男の歌。

 

そのやせ細った自分の姿を見つめている、もしくは女性に訴えて、だからといってあなたに寄り添えるわけではないのに。「ないのに」と言ってはいますが要するに、影のように痩せたのだから、せめてあなたの影になってそばにいたい。という訴えです。「影のように痩せた」と「あなたの影になりたい」と、2種類の「影」を対比させたあたりがポイントです。最初の「影」は弱々しい消極性の影、次の「影」はそばにいたいという積極性の影という対比も読み取ってよいでしょう。弱々しいふりをしつつ言いたいことは言う、という。

 

古典文法解説

―影・なりにけり・さりとて・「添はぬ」・ものゆゑ

 

Q 古文単語「影」といえば「光」のことでは?

A よく覚えていました。ただ必ずしも「光」であるとは限りません。ここでは、「影」。

 

Q 「なりにけり」の文法説明

A 「なり」は動詞です。よく似たトラップに、伝聞推定の助動詞「なり」と断定の助動詞「なり」がありますが、ここでは簡単に見分けられる。助動詞の活用表を見ましょう。接続です。その助動詞の上に何が来るかが書いてあります。未然形接続とか、連用形接続とか、ありますね。助動詞は必ず動詞や形容詞や形容動詞や助動詞や体言や助詞「の・が」の下に置かれます。「影となりにけり」ですから、「なり」の上にあるのは「と」です。ですからこの「なり」は助動詞ではありません。「~になる」という意味の動詞「なる」です。「なり」の終止形は「なる」です。なぜ?という方は古語辞典で「なり」をひいてみましょう。古語辞典に「なり」という動詞はない。ということは「なり」は終止形ではない。終止形にありそうな「なる」の形で再び古語辞典をひいてみましょう。終止形はだいたい最後が「ウ音」になることが多い。ありましたね。ラ行四段活用動詞「なる」。これの連用形が「なり」です。「影になる」と現代語訳します。連用形だということを覚えておいてくださいね。次に重要です。

 

A 「にき」「にけり」「にたり」「にけむ」とあれば完了の助動詞「ぬ」の連用形だと覚えて下さい。
「に」といえば①完了の助動詞「ぬ」の連用形 ②断定の助動詞「なり」の連用形 ③ナリ活用形容動詞「○○なり」の連用形活用語尾 ④格助詞 ⑤接続助詞 ⑥副詞の一部 です。

以下、再掲ですがひとつひとつ説明します。以前のコピペじゃないかと言わないように。一度で覚えられるなら誰も苦労はしません。
①完了の助動詞「ぬ」の連用形。連用形に接続します。今回はこれです。「に」の直前に「なり」があります。「なり」が動詞であるということは上でご説明したとおり。連用形だったと覚えていますね。連用形に接続する「に」だからこれは完了の助動詞。「にき」「にけり」「にたり」「にけむ」とあれば完了の助動詞「ぬ」の連用形とも覚えておくと便利です。
②断定の助動詞「なり」の連用形。体言・連体形に接続します。「にやあらむ」などの形を取ります。
たとえば、「父はなほびとにて」の「に」は「なほびと」という体言(名詞)の下に接続していますから②の断定。
たとえば、「散りにけり」の「に」はタ行四段活用動詞「散る」の連用形に接続していますから、①の完了。「静かにて」の「静か」は形容動詞の語幹であって、連用形でも体言でも連体形でもありませんから、①②の可能性はゼロです。
わかります?「に」の見分け問題は、「に」が何かを聞く問題というよりも、「に」の上の語が何かを聞く問題だと思ってください。「に」がきたら、上の語を見る。上の語の活用形が何かをチェックです。

③ナリ活用形容動詞「○○なり」の連用形活用語尾。これは一番みわけやすい。形容動詞ですから、なにかを形容しているわけです。「あはれに」とか「静かに」とか「あてに(上品に)」とか。現代語でも違和感のない表現ではないでしょうか。これは形容動詞なの?と思ったら古語辞典を引いてみましょう。
上に「とっても」をつけても意味が通るのが形容動詞です。「とっても静かに」。通じますね。形容しているのですから、どの程度「静か」なのかを言うこともできるわけです。
みわけるのは簡単ですが、答えるときには注意してください。記述問題であった場合、「ナリ活用の形容動詞「静かなり」の連用形活用語尾」までしっかり書かないと×になるおそれがあります。

 

そろそろ疲れてきたでしょうか。①~③は複雑です。もう無理だわ、と思ったら①~③までをよく理解して下さい。④以下はまた今度。何度でもコピペします。

 

④格助詞。「格」というのは、その言葉がその文章の中でどういう役割なのかを示しています。「私にあなたがチョコを与える」だと、「私」に「あなた」から「チョコ」が譲渡されるという意味になります。「私があなたにチョコを与える」だと、「私」から「あなた」に「チョコ」をあげるから泣くな鼻水を拭けという意味になります。「に」にするか「が」にするかで、チョコをあげる人もらう人が変わります。これが格助詞の役割です。
格助詞は体言と連体形に接続します。「あなたに」とか「家に」とかの「に」です。上が体言(名詞)だったら、格助詞か②断定の助動詞「なり」の連用形を考えましょう。

⑤接続助詞。「今日はバレンタインだというのに、チョコをもらえなかった」の「のに」。(「のに」は現代語ですが、)逆説の接続助詞。「今日はバレンタイン」と「チョコをもらえなかった」というふたつの文を接続させているから接続助詞。接続助詞は連体形に接続します。がんばれ、負けるな。

⑥ラスト。副詞の一部。これは古語辞典を引きましょう。副詞かどうか書いてあります。形容動詞か副詞か文法上曖昧なものもありますが、それは将来国語学の研究者にでもなったら考えましょう。

 

Q 「さりとて」

A 現代語でも、文語的表現として使います。そうは言っても、という意味です。分解すれば、ラ変動詞「然り(さり)」の終止形+格助詞「と」+接続助詞「て」、になりますが、一語で逆接の接続助詞として扱い下に打消や反語を伴う、と理解してください。ここでは「さりとて~(添は)ぬ」と打消の助動詞があります。

 

Q 打消か完了か。「添はぬ」か「添ひぬ」か。

A 「ぬ」の上が未然形なら打消の「ず」。連用形なら完了の「ぬ」です。これは絶対に覚えておきましょう。「添は」と「添ひ」の活用形がわかれば「ぬ」がなんだかわかります。「添は」と「添ひ」の終止形は「添ふ」です。「添ふ」で古語辞典を引きましょう。ハ行四段活用動詞とありますね。四段活用ですから「添は」は未然形、「添ふ」は連用形です。「添はぬ」の「ぬ」は未然形に接続する打消の助動詞「ず」の連体形でした。「添ひぬ」となっていたら完了です。

 

Q 「ものゆゑ」は逆説の接続助詞である。

A これを説明したくてこの歌をアップしました、というわけでもないですが、連体形につく「ものの・ものを・ものから・ものゆゑ」という逆接カルテットがあります。助詞一覧が文法の教科書についていますね。あまり見ない言葉ですが、念のため覚えておきましょう。連体形につく、というだけで「ぬ」の検算に使えますし。

 

品詞分解

サ変動詞「恋す」の已然形/接続助詞/名詞/係助詞/名詞/格助詞/
恋すれ/ば/わが身/は/影/と/

ラ行四段活用動詞「なる」の連用形/完了の助動詞「ぬ」の連用形/
なり/に/

過去の助動詞「けり」の終止形/接続助詞/名詞/格助詞/
けり/さりとて/人/に/

ハ行四段活用動詞「添ふ」の未然形/打消の助動詞「ず」の連体形/
添は/ぬ/

接続助詞
ものゆゑ