読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

恋の和歌 それ以上に愛しています ― わびしさをおなじ心ときくからにわが身をすてて君ぞかなしき

  返し 
わびしさをおなじ心と聞くからにわが身をすてて君ぞかなしき
  (後撰和歌集・恋一・源信明/男性・595・10世紀)

 

現代語訳

  (中務から送られてきた歌に)返した歌
(今朝あなたと別れてからずっと)わびしさを(抱えて耐えかねていましたが、あなたもわたしと)同じ心(で今朝の別れをつらいと思っていらっしゃる)と聞いたために、我が身を捨ててもよいほどあなたがいとおしく思われることです。

 

内容解説

承前。源信明。名前を「さねあきら」と読みます。光孝天皇の曾孫にあたります。父は源公忠という歌人で、父子そろって歌の名手と名高く三十六歌仙という和歌オールスターズにも選ばれました。伊勢、中務の母子も三十六歌仙に入っていますから、重代の歌人同士の恋。その信明が、恋人の中務(なかつかさ)から、ふたりの「初めての翌朝」に歌をもらった話でした。返事にも気合いが入ります。前回の中務の歌を再掲しましょう。

  はかなくておなじ心になりにしを思ふがごとは思ふらんやぞ


中務が「同じ心」と言ってきたのをまずは踏襲しました。女の子が何か言ってきたら、まずは「うん、そうだね」と言う。さすがです。「同じ心」と返すことで、本当にふたりは「同じ心」なのだと安心させるのです。なにしろ「初めての翌朝、家に帰ったあと」ですからお互いに不安。これでよかったのかしら。そこは元気づけてあげないといけません。そこで、中務の「思ふがごとは思ふらんやぞ」には「わが身をすてて君ぞかなしき」と返しました。私と同じようにあなたも私を愛しているかしらと訴えかけられた中務の不安に、我が身のことなどどうなってもよいと思えるほどあなたを恋しく思っていますよと返したのです。

 

中務の「同じ心」をそのまま引き、「思ふがごとは思ふらんやぞ」にはそれ以上の「わが身をすてて君ぞかなしき」を返した信明。「心」は同じ、でも「我が身」よりあなたのほうが大切。中務は、かなりモテた女性でした。才気も容姿も性格も人を惹きつけてやまない人だったのでしょう。信明の、逃がしてなるものかという本気を感じます。がんばれ信明。

 

中務からの贈歌はこちら。


次回も、このカップルの歌をご紹介します。

 

古典文法解説

―「からに」・「かなし」

 

Q 接続助詞「からに」

A ①原因・理由 ②~するとすぐに ③逆説の仮定 の意味があります。ここでは①か②かどちらかです。①なら、聞いたために。②なら、聞いたとたんに。となります。どちらでも通じますね。よくわからない言葉は何でも古語辞典を引いてみましょう。
中務の「はかなくておなじ心になりにしを思ふがごとは思ふらんやぞ」にせよ、この「わびしさをおなじ心と聞く」にせよ、省略が多くて意味が取りにくい歌ではあります。当人同士がわかればよいという前提で作られていますからしかたがないのですが。

 

Q 「かなし」

A 現代語では「悲しい」とマイナスの感情を表しますが、古語の「かなし」には、身にしみていとおしいという意味もあります。「対象への真情が痛切にせまってはげしく心が揺さぶられるさまを広く表現する。悲哀にも愛憐にもいう。」(日本国語大辞典)だそうです。「我が身を捨てて、君ぞかなしき」ですから、まさに「真情が痛切にせまってはげしく心が揺さぶられる」状態でしょう。係助詞「ぞ」の結びで連体形「かなしき」になっています。

 

品詞分解

  サ行四段活用動詞「かへす」の連用形
  返し

名詞/格助詞/シク活用の形容詞「同じ」の連体形/名詞/格助詞/
わびしさ/を/おなじ/心/と/

カ行四段活用動詞「きく」の連体形/接続助詞/名詞/格助詞/名詞/
きく/からに/わ/が/身/

格助詞/タ行下二段活用動詞「すつ」の連用形/接続助詞/名詞/
を/すて/て/君/

係助詞/シク活用の形容詞「かなし」の連体形
ぞ/かなしき