読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

夏の和歌 はるかな夏の海 ― 潮満てば野島が崎のさゆり葉に浪こす風の吹かぬ日ぞなき

夏歌(Summer) 夏歌(Summer)-風(Wind) 大学受験によく出る古典文法
  夏草をよめる
潮満てば野島が崎のさゆり葉に浪こす風の吹かぬ日ぞなき
  (千載集・雑・源俊頼/男性・1045・11世紀)

 

現代語訳

  「夏草」という題で詠んだ(歌)
(夏のあいだ中、)潮がみち(てくる時間にな)れば、野島が崎の(岸辺に揺れる)小百合の葉の上に、(はるかあの海の)波を越えてやってきた風が吹かない日はないことだ。

 

内容解説

暑い、という言葉以外に思いつくものがありませんが、小中高校はそろそろ夏休みでしょうか。海へ遊びに行く方はケガのないように、楽しんできてくださいね。泳いでも砂浜にいるだけでも潮風は夏の香りを運んできます。

 

野島が崎は今の兵庫県淡路島。満ち潮が迫るころ、はるかな海を波立たせながら吹いてきた風が浜辺にあがり、小百合の葉を波のようにざわめかせて過ぎ去ってゆく。一面の海と空の下。あふれる満ち潮。真っ白な波。百合の葉。生い茂る緑。おしよせる真夏の潮風。

 

とにかく視界の広い歌です。「潮満てば」、これが海からの第一報。潮が満ちてひたひたと足もとが波に濡れる。その上を「波こす風」。はるかな海のかなたから幾千の波を越えてやってきた風が海岸を覆う。波のかなた、風のかなた。それが浜辺に生い茂る小百合の葉の上を音をたてて過ぎ去ってゆく。題が「夏草」となっていますが、作者俊頼の『散木奇歌集』には「皇后宮権大夫師時の八条の家歌合に野風を」とあります。もともと「夏草」ではなく「野風」を主題に詠んだ歌だったようです。海から陸へまっすぐに吹き寄せてくる風の涼しさとはるかな眺望が伝わるでしょうか。夏の海、夏の潮風。夏ですね。よい季節です。

 

  

古典文法解説

Q 「みてば」は「見て/ば」じゃないんですか?

A 「見る」はマ行上一段活用ですから、「み・み・みる・みる・みれ・みよ」です。「て」が入る余地はありません。なので「みて」を終止形にします。まずは「て」を「ウ音(終止形に一番多い)」の「みつ」にして、古語辞典をひいてください。「満つ」は自動詞(満ちる)四段活用と、他動詞(満たす)下二段活用とでてきます。自動詞ってなんだ?という方は文法の教科書を見てみましょう。「生きる」は自動詞、「生かす」は他動詞。「風が吹く」は自動詞、「笛を吹く」は他動詞。「満ちる」は自動詞、「満たす」は他動詞です。潮が「満ちる」であって、潮が「満たされる」ではないので、ここでは自動詞で四段活用です。「満て」は已然形だと確かめてから、次を読んでください。

…確かめましたね?

 

Q 「ば」は原因理由じゃいけないんですか?

A 原因理由だとすると、「潮が満ちてくるから、風が吹く」になりますね。恒常条件とは、こうなるといつも必ずああなる、ですから、「潮が満ちてくると、必ず風が吹く」になります。後半に「吹かない日はない」とありますので、いつも/必ずで解釈しました。満ち潮が浜辺に押し寄せてくるのと、海風が浜辺に吹いてくるのと、浪と風が同時に迫ってくるパノラマを想像してください。


ところで、「ば」には4つ意味がありました。

①順接の仮定条件。これだと、「潮が満ちるかどうかわからないけれど、もし満ちたとしたら…」。これはないです。月の引力が狂う。仮定条件の時には上の動詞「満つ」が未然形になります。

②順接の確定条件。上の動詞「満つ」が已然形なのでここは②です。②には原因理由、偶然条件、恒常条件の3つがあります。文脈から判断してください。「○○だから××なんだな」と思ったら原因理由。「○○したところたまたま××になったんだな」と思ったら偶然条件。「○○すると必ず××になるんだな」と思ったら恒常条件です。原因理由はないですね。上に述べたとおり。では偶然か恒常か。ここは恒常です。だって、「波超す風の吹かぬ日ぞなき」ですから。潮が満ちると毎日必ず風が吹くんです。

 

Q 野島が崎ってどこですか?

A 兵庫県淡路島です。「野島が崎」には昔から「夏草」「浜風」のイメージがあったようです。

玉藻刈る みぬめをすぎて 夏草の 野島の崎に 舟ちかづきぬ
  (万葉集・雑歌・柿本朝臣人麿羈旅歌八首・250)
あはぢの 野島の崎の 浜風に 妹がむすびし 紐吹きかへす
  (同上・251)

 

Q 格助詞「に」を文法の教科書で見ると、「場所、時、対象相手、受け身の動作主…」とたくさんあります。

A 正確な意味は考えなくても、「百合の葉に風が吹く」といえば「に」が何を表しているかはわかるでしょう。現代日本語ネイティブの強みです。先ほど説明した接続助詞「ば」は、現代日本人にはわかりにくいので正確に捉えてください。

 

Q 「越す」って終止形じゃないんですか。

A 四段活用は終止形と連体形が同じだからわかりにくい。「波こす」と「風」が別物ならば終止形です。ここでは「波を越えていく風」ですので、「風」という体言に接続する連体形と考えます。

 

Q 「吹かぬ日ぞなき」がわかりにくいです。

A 二重否定ですね。「吹かない日はない」ですから「吹く」です。潮が満ちると毎日かならず風が吹く。「吹かぬ日」からいきましょう。「吹かぬ」の「ぬ」は打消です。完了ではありません。「吹か」が未然形だからです。「吹か」の「か」をウ音にして「吹く」で古語辞典をひいてください。未然形につく「ぬ」は打消の「ず」です。打消の「ず」は連体形になると「ぬ」になります。なぜ連体形になるかというと、下に体言(名詞)の「日」があるからです。
もういちど整理しましょう。助動詞(動詞の後についています)の「ぬ」を見つけたら、上の動詞を見ましょう。上の動詞が未然形なら「ぬ」は打消です。次に「ぬ」の下を見ましょう。体言(名詞)がありますか?あれば間違いなく打消の「ぬ」です。助動詞「ぬ」の上が連用形だったら、その「ぬ」は完了です。次に「ぬ」の下を見ましょう。下に体言はないですか?文章が終わっていますか?終わっていたら完了の「ぬ」の終止形で間違いありません。

 

 「ぞなき」にいきましょう。「ぞ」は係助詞です。「は・も・ぞ・なむ・や・か・やは・かは・こそ」と覚えました。覚えていない人は覚えてください。お願いします。このうち「ぞ・なむ・や・か・やは・かは・こそ」は係り結びを起こします。「ぞ・なむ・や・か・やは・かは」より下にある動詞のどれかが連体形になり、「こそ」より下にある動詞のどれかが已然形になります。係助詞の基本は、「これって【すっごい/めっちゃ/ぜったい】何とかなんだ【よ!】」です。【すっごい/めっちゃ/ぜったい】の部分が係助詞。【よ!】の部分が係り結びです。結んでもらわないと、これって…が何を指しているのかわかりません。ここでは「吹かない日って絶対ないんだよ!」です。「絶対」が「ぞ」。「なき」が「ないんだよ!」です。よ!と強調してるわけです。ただし現代語には訳出しにくい。「ことだ」と訳しましたが難しければ訳出しなくてかまいません。

 

 

品詞分解


名詞/タ行四段活用動詞「みつ」已然形/接続助詞/名詞/格助詞/名詞/
しほ/みて/ば/のじまがさき/の/さゆりは/

接続助詞対象/名詞/サ行四段活用動詞「こす」連体形/名詞/格助詞/
に/なみ/こす/かぜ/の/

カ行四段活用動詞「ふく」未然形/打消助動詞「ず」連用形/名詞/係助詞/
ふか/ぬ/ひ/ぞ/

ク活用形容詞「無し」連用形
なき