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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

夏の和歌 夏の納涼、ふたり連れ ― みそぎする賀茂の河風吹くらしも涼みにゆかん妹をともなひ

夏歌(Summer) 大学受験によく出る古典文法
みそぎする賀茂の河風吹くらしも涼みにゆかん妹をともなひ
   (好忠集・六月中・曽祢好忠/男性・174・10世紀)

 

現代語訳

六月祓をする賀茂の川風が(涼しく)吹いているようだ。涼みに行こう。妻といっしょに。

 

内容解説

前回と、前々回の続き。ごろごろだらだら昼寝していた好忠さんですが、たまにイベントがあると奥さんと一緒に見に行くのだそうです。「六月祓(みなづきばらえ)」といって厄払いの禊ぎです。古典世界の夏は6月までですから夏の終わり。夏の暑さを洗い流すような行事です。6月末がちょうど一年の折り返しですから、いろいろ厄を祓っておこうという魂胆でしょう。

清らかな水で体を洗い流し、穢れを清めます。現代人が神社で手を清める水も、あれも禊ぎ。もちろん神事ですが、見に行く人にとってはイベント、お祭りです。まあ、ずっと昼寝していましたから、たまにはお祭り見物にでも。

 

 

古典文法解説

 

Q 「らしも」ってなんですか。

A 「らし」は推定の助動詞。「も」は係助詞です。係助詞「も」が文末につくと詠嘆を表し、これを終助詞と取る説もある、などと文法の教科書に書いてあると思います。
「らし」は覚えておいてください。推量系の助動詞の中でも眼前の客観的事実を基に述べられ確信の度合いが高いので推定、なのだそうです。活用語の終止形につき、ラ変動詞には連体形につく。連体形と已然形は係助詞の結びでのみ用いられる、と。

 

Q 「に」は格助詞か、接続助詞か。

A 格助詞です。「格」というのは、その言葉がその文章の中でどういう役割なのかを示しています。「私/に/あなた/が/チョコ/を/与える」だと、「私」に「あなた」から「チョコ」が譲渡されるという意味になります。「私/が/あなた/に/チョコ/を/与える」だと、「私」から「あなた」に「チョコ」をあげるから泣くな鼻水を拭けという意味になります。「に」にするか「が」にするかで、チョコをあげる人もらう人が変わります。これが格助詞の役割です。その言葉が、その文章の中で、どういう役割なのか、です。
 もうひとつ例を挙げましょう。「夏休み/に/プール/に/行く」。「夏休み」はこの文章の中でどのような役割か。時期、時間を示す役割ですね。では「プール」は。場所を指す役割ですね。これが格助詞。
 格助詞は体言(名詞)と連体形に接続します。「あなたに」とか「家に」とかの「に」です。上が体言(名詞)だったら、格助詞か②断定の助動詞「なり」の連用形を考えましょう。
 ただし、目的と強調の場合は連用形に付きます。目的を表す「飲み/に/行く」「歌い/に/行く」と言った場合は連用形に格助詞「に」がつく。強調の「泣き/に/泣く」も連用形接続です。

 さて、接続助詞にも「に」があります。やっかいなことに、連体形に接続します。格助詞「に」は体言と連体形に接続し、接続助詞「に」も連体形に接続する。格助詞と接続助詞のそもそもの分類の違いを理解した方が早いと思います。例文を挙げます。あくまで例です。深い意味はありません。「つらつら考える/に/そろそろ夏休みの宿題をしたほうがよい」
わかりますか。「つらつら考える」と「そろそろ夏休みの宿題をしたほうがよい」は全く別の文章です。「つらつら考える」と「そろそろ夏休みの宿題をしたほうがよい」というふたつの文章を「に」が接続しています。だから接続助詞と呼ばれるのです。
 格助詞の例文を思い出してください。「私があなた/に/チョコをあげる」。格助詞はひとつの文章の中でその言葉の役割を示すもの接続助詞はふたつの文章をつなげるものです。

 

「に」といえば他にも4つありました。暑いですが、説明いきます。がんばってついてきてください。
まずは文法の教科書か古語辞典をひいてください。文法の教科書を持っている方は、「まぎらわしい語の識別」のページを開いてください。教科書の後ろの方にあると思うのですが。古語辞典の方は「に」をひいてください。文法の教科書はふだんから使っておくことをおススメします。ノートや古文の教科書は毎年数が増えますが、文法の教科書は一冊きり。受験当日に持っていくのも文法の教科書です。仲良くしておくにこしたことはありません。では、いきますよ。

 

「に」の種類には①完了の助動詞「ぬ」の連用形 ②断定の助動詞「なり」の連用形 ③ナリ活用形容動詞「○○なり」の連用形活用語尾 ④格助詞 ⑤接続助詞 ⑥副詞の一部 とあります。
④と⑤は先に説明したとおり。

 

①完了の助動詞「ぬ」の連用形。連用形に接続します。「にき」「にけり」「にたり」などとあったら、これです。
②断定の助動詞「なり」の連用形。体言・連体形に接続します。「にやあらむ」などの形を取ります。
たとえば、「父はなほびとにて」の「に」は「なほびと」という体言(名詞)の下に接続していますから②の断定。
たとえば、「散りにけり」の「に」はタ行四段活用動詞「散る」の連用形に接続していますから、①の完了。「静かにて」の「静か」は形容動詞の語幹であって、連用形でも体言でも連体形でもありませんから、①②の可能性はゼロです。
わかります?「に」の見分け問題は、「に」が何かを聞く問題というよりも、「に」の上の語が何かを聞く問題だと思ってください。「に」がきたら、上の語を見る。上の語の活用形が何かをチェックです。

 

③ナリ活用形容動詞「○○なり」の連用形活用語尾。これは一番みわけやすい。形容動詞ですから、なにかを形容しているわけです。「あはれに」とか「静かに」とか「あてに(上品に)」とか。現代語でも違和感のない表現ではないでしょうか。これは形容動詞なの?と思ったら古語辞典を引いてみましょう。
上に「とっても」をつけても意味が通るのが形容動詞です。「とっても静かに」。通じますね。形容しているのですから、どの程度「静か」なのかを言うこともできるわけです。
みわけるのは簡単ですが、答えるときには注意してください。記述問題であった場合、「ナリ活用の形容動詞「静かなり」の連用形活用語尾」までしっかり書かないと×になるおそれがあります。

 

⑥ラスト。副詞の一部。これは古語辞典を引きましょう。副詞かどうか書いてあります。形容動詞か副詞か文法上曖昧なものもありますが、それは将来日本語学の研究者にでもなったら考えましょう。

 

Q 連用形で終わる歌。

A 「ともなひ」です。連用形。連用形が文末に来るとはどういうことでしょう。そう、倒置法です。本来「妹をともなひ、涼みにゆかん」の形ですが、重要なことを後に言って強調している。お祭りにいくぞよりも、奥さんと一緒、に重点があるんですね。

 

品詞分解

サ変動詞「みそぎする」の連体形/名詞/格助詞/名詞/
みそぎする/賀茂/の/河風/

カ行四段活用動詞「吹く」終止形/推定の助動詞「らし」の終止形/
吹く/らし/

係助詞/マ行四段活用動詞「涼む」連体形/格助詞/
も/涼み/に/

カ行四段活用動詞「ゆく」未然形/意志の助動詞「ん」終止形/
ゆか/ん/

名詞/格助詞/ハ行四段活用動詞「ともなふ」連用形
妹/を/ともなひ