和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

秋の和歌 秋のもの思いそれぞれ ― 草木まで秋のあはれをしのべばや野にも山にも露こぼるらん

草木まで秋のあはれをしのべばや野にも山にも露こぼるらん
     (千載集・秋歌上・題しらず・慈円・263)

 

現代語訳

(人が秋のあはれに心動かされるのはあたりまえのことだけれども、心を持たないはずの)草木まで秋のせつなさに心を寄せているから、野にも山にも(涙のような)露がこぼれているのだろうか。(それほどせつない秋の思いに私もまた涙をこぼさずにはいられないのだ。)

 

内容解説

朝夕寒くなってまいりました。こんな夜には草木の上に露が置いて翌朝の風に揺れていたりします。空気中の水蒸気が気温の低下で凝縮し草木の葉に付く結露と、植物内部の水分が浸透圧によって分泌される溢泌液とに分類できるようですが、などと鎌倉時代の人が考えていたわけでもないのになんで書いたのかと言いますとね、ちょっとググったらこんなサイトを見つけたわけです。『日本植物生理学会』。リンクはこちら。サイトのデザインもかわいい。「http://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=37」。そんな学会があるのかーと知ったのもさることながらね、もう感激。非専門家がちょっと知りたいと思ってググってちゃんと専門家の回答にたどりつくというのは、これはすごい。

 

前に自然科学系の友人(心理学。脳神経がどうのこうの)からネットで読めない論文はないと聞き、ついこのあいだも社会科学系(経済学)の先輩から論文はiPadで読むものだと聞き、実に実にうらやましいと思っていましたが、非専門家の疑問に学会公式が答えるページまであるとは。わたしの研究分野だと、論文さがすのだってCiNii(http://ci.nii.ac.jp/)をひき、国文研のデータベース(http://base1.nijl.ac.jp/infolib/meta_pub/G0038835RBN)をひき、我が大学図書館OPACをひき、所蔵があればコピーしに電車乗って図書館に行き、なければ他図書館からの取り寄せを依頼し、コピー取り寄せが郵送されるまで何日待って、がふつうです。21世紀ですよ。グローバリゼーションですよ。電子書籍の時代ですよ。もう、全然ふつうじゃない。

 

先輩(日本文学)によると著作者の許可やら何やらの関係でなかなか日本文学の論文はデジタルにならないんだそうですが、いやもう、その箇所だけ切り抜いてもいいです。ぜんぜんおっけー。できるところだけでかまわない。日本文学と心理学・経済学じゃ海外の研究者の数が違うからネット公開の必要性は低いと言われればそうかもしれませんけど、この程度のブログでも海外からアクセスあるくらいですし、興味を持ってくれている読者はいますし、海外の日本文学研究者は本一冊手に入れるのにもずいぶん苦労しているようですし。

 

研究者向けの論文アクセスと、研究者以外に向けての研究成果の発信と、海外への発信と、いろんな意味でネット公開は大事だと思うんだけどなー。あ、このブログは記事のタイトルとURLを書いておいてくれればどこに引用してくださってもかまいません。もともと非専門家向けにと思って始めた当ブログですけど、こういう進んだサイト見つけると彼我の懸隔に涙も出ない。しかもあのサイト作るにも研究費出てるん……。とまあ、秋のもの思いは尽きることがないわけで、もう、あまりの嘆きにまったく和歌の内容解説になりませんでした。うう。

 

 

 

古典文法解説

Q 「草木まで」とあるからには草木以外にも「秋のあはれをしのぶ」何かがある。

A 草木までも、という意味です。人には心があるのだから秋のあはれに心を寄せてあたりまえ。心がないはずの草木までも涙をこぼすのは、秋のあはれがそれだけ心にしみるものだからだろうか、ということですから、草木以外の泣いているものは「人」です。

 

Q 「あはれ」をどう訳すか。

A 古語辞典には「しみじみとした情緒」とか何とかありますね。横のコラムに「をかし」は「理知的なおもしろさ」などとあったりします。意味を聞かれたらそう答えておいてください。秋の夕方にふと切なさを感じることがあったら、それが「あはれ」です。

 

Q 「しのべばや」を品詞分解せよ。

A これはぜひやってみていただきたい。受験生の方には。

順番に「しのぶ」「しのべば」「しのべばや」です。
最初にあるのは動詞の「しのぶ」です。「しのべ」の終止形は「しのぶ」ですから。わかる方はそのまま。この時点で?? な方は古語辞典をひきましょう。「しの~」とひいていくと「しのぶ」と出てくるはずです。品詞分解に困ったら最初に、一番上の言葉の元の形、終止形は何だろうと考えてください


で、「しのぶ」が「ば」につく場合、ふたつの可能性が考えられます。「しのばば」と「しのべば」です。「しのばば」なら「しのぶ」の未然形プラス「ば」で「もししのんだとしたら」、「しのべば」なら「しのぶ」の已然形プラス「ば」で「しのんだので」です。さて、違いは何でしょう。


未然形と已然形、活用形の違いは下に来る言葉の違いです。下にある「ば」の種類が違うから上のある「しのぶ」の活用形が違う。未然形に付く「ば」は仮定条件「もししののんだとしたら」、已然形に付く「ば」は確定条件「しのんだので」です。む?という方は文法の教科書を見てください。接続助詞の「ば」のページです。
次、「や」。疑問の係助詞です。これが「しのばばや」なら大問題です。未然形に接続する「ばや」があるからです。「しのば/ばや」である可能性がある。「しのべ/ば/や」でよかったですね。

 

Q 「ばや~らん」をどう訳するか。

A 以前にもお話ししましたっけ忘れましたが、「や~らん」とあったら要要要注意です。「や」は疑問の「か」、「らん」は推量の「だろう」です。このふたつ、「や」と「らん」は必ずセットで訳してください
ここでは「しのべばや~こぼるらん」となっていますので、現代語訳は「しのんでいるから~こぼれているのだろうか」になります。「しのんでいるからか~こぼれているようだ」と訳すこともあります。
已然形の原因理由+や~推量の「む」「らむ」「けむ」で、「~だから、~なのか」。已然形の原因理由+や~事実で「~だから、~なのか」。のように、上に原因理由が来て、下でその結果を示し、「こうだから~こうなのだろうか」となります。

 

品詞分解

名詞/副助詞/名詞/格助詞/名詞/格助詞/
草木/まで/秋/の/あはれ/を/

バ行四段活用動詞「しのぶ」已然形/接続助詞/係助詞/
しのべ/ば/や/

名詞/格助詞/係助詞/名詞/格助詞/係助詞/名詞/
野/に/も/山/に/も/つゆ/

ラ行下二段活用動詞「こぼる」終止形/推量の助動詞「らん」連体形
こぼる/らん