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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

秋の和歌 花だけが咲く秋の庭 ― あるじなき庭の千草の花盛りいかばかりかは秋は悲しき

秋歌(Autumn) 秋歌(Autumn)-草木(Plant) 大学受験によく出る古典文法
あるじなき庭の千草の花盛りいかばかりかは秋は悲しき
  (現存和歌六帖・秋のはな・前大納言基良・447)

 

現代語訳

(家の)主がいなくなったこの庭の千草の花も(秋を迎えて今を)盛り(と咲き乱れている)。ああ、どれほど秋は悲しいことか。

 

内容解説

秋の花といえば、「はぎ」や「なでしこ」、「おみなえし」といった色鮮やかな草の花です。「秋の七草」で画像検索をかけてください。一面のパステルカラー。『国語総覧』や『国語便覧』の類にも、写真が載っていると思います。山は紅葉に、野は花に、秋は色づく。ここでは庭の花ですから、そのへんの雑草ではなく誰かが手入れして育てた花です。主がいなくなってしまった後も、丹精込めて育てた庭の花だけは秋を盛りと咲いている。

 

なぜ「あるじ」がいないのかの説明はありません。亡くなったか、引っ越したか、用事があって遠くに旅立ったかどちらかでしょう。数年留守にしていた家が荒れ放題に荒れ、新しい木など生えてくるさまは『土佐日記』にもくわしい。詠歌主体―この歌の視点―は「あるじ」を失ってなお華やかにいろづく庭の秋をひとり見つめています。主と親しい間柄だったのか、知らない土地の崩れかけた廃屋の庭を眺めているのか、これもよくわかりません。愛情込めて育ててくれた主がいなくなったことも知らないで、花は今年も可憐に華やかに咲き乱れている。春は芽吹きと誕生の季節。夏には命が野にあふれ、そこまではイメージと違わない。それに比べて秋という季節は枯れて冬に向かう季節のはずなのに、一面あざやかな色彩にあふれている。

 

楽しい嬉しい悲しい寂しいとただ騒ぐだけでなく、文学表現の一技法に、情景と心情の一致もしくは対比、という方法があります。情景なのか心情なのかいまいち切り離しがたい部分もありますが、とりあえず説明。主を失った家という情景が、秋の寂しさという心情をいっそう引き立たせると表現するのが情景と心情の一致。これとは逆に、華やかに咲き乱れる花の美しさという情景が、秋の寂しさという心情を際立たせると表現するのが情景と心情の対比です。この歌は、秋の寂しさと主を失った家のわびしさの一致、秋の寂しさと花盛りの対比、主を失った家のわびしさと花盛りの対比、という3つの要素の絡み合いからできています。当たり前じゃーんと思った方はだいじょうぶ。なにそれ? と思った受験生の方は少し注意して聞いていてください。

 

詩歌の解釈は個人の感性でご自由にどうぞ、とはいかない、というお話しです。共有された文化、というものがあります。ひとつの文化圏に属するメンバーが共有する価値観や人生観、イメージ、常識のことです。涙を流していてふと窓の外を見たら雨が降っていた、と言われたら、落ちる水としての涙と雨が一致していると考えなくてはなりません。あ、洗濯物入れなきゃ、ではありません。桜は美しく咲く一方で、すぐに散ってしまうはかないものでもあります。卒業式入学式は近代以降の制度ですが、出会いと別れのイメージは古来のイメージに近いものを継いでいると言えるでしょう。同様に、秋には心の寂しさと景色の美しさを感じるというのは、これは文化ですから、そんなものかと理解してください。四季にまつわるイメージは、春夏秋冬をそのまま受け継いだ日本人には理解しやすいのではないかと思います。季節といったら乾季と雨季でしょ、という文化圏の人には理解しにくいかもしれません。

 

かように詩歌の解釈は個人の自由ではないのです。個人でどう感じても自由ですよ。自由ですが、試験の場ではそうはいかない。というわけで、秋に寂しさと華やかさを感じる人と別に感じない人とそれぞれいるとは思いますが、ここはひとつ文化だと思って試験に向かってくださいな。

 

 

古典文法解説

Q 「いかばかりかは秋は悲しき」を現代語訳せよ、文法説明せよ。

A いかがでしょう。秋風の吹くこの季節、受験生のみなさまにおかれましてはぜひ、なんとか、がんばって、いただけると。

 

どのへんで切れそうな気がします?「いかばかり」はひとかたまりな感じでいいですか? 「かは」なのか、「か/は」なのか保留? 「秋」と「は」は切れますね。「悲し」と「き」が切れるかどうか微妙。

 

うん。「かは」なのか「か/は」なのか。「悲しき」なのか「悲し/き」なのか、そのあたりが悩みどころでしょう。そういうときはどうするか。まずは、「かは」という言葉があるか調べましょう。どうやって? 古語辞典か、文法の教科書です。こらこらこら続きを読まない。古語辞典か文法の教科書を開ける。開けました? 文法の教科書には最後の方のページに索引がついているでしょうし、助動詞か助詞だろうと見当がつくならば表紙めくってすぐの助動詞の一覧表、裏表紙めくってすぐの助詞の一覧表から探すこともできる。「かは」を見つけたら、文法上、意味上、矛盾がないか確かめましょう。「かは」は文末の活用語をどうすると書かれていますか? 「かは」の意味は何ですか? この歌の中に当てはめて、意味が通りますか? めんどいですね。調べるのはめんどい。めんどい方は覚えてしまいましょう。覚えれば調べなくて済みます。

 

確認したら、「か/は」の可能性も調べておきましょう。そもそも「かは」は「か」と「は」がくっついたものだと説明されています。

 

「かは」の意味は調べましたね。文法上の特徴にはなんてありました? 文末の活用語を連体形にするとありましたね? 文末の活用語はどれですか? 「かなしき」ですね。「かなしき」を文法的に説明するとどうなりますか? 「かなしき」ですか? 「かなし/き」ですか? いけるところまで、考えてみてくださいな。

 

 

 

 

 

 

 

正解は、「いかばかり/かは/秋/は/かなしき」です。わからなければ、これも古語辞典を引きましょう。「いかばかり」は一語で立項されていると思います。「かは」は係助詞。疑問を表します。「いかばかり」が「どれほど」という意味ですから、「どれほど~か」と訳します。係助詞「かは」がありますから、「悲しき」は「悲し」の連体形です。正解した方はおめでとうございます。わからなかった、間違えた方は文法の教科書をよーくよーく見直してもう一度考えてみてください。一度自力で正解にたどり着けば、二度目三度目は格段に楽になります。がんばれー。

 

品詞分解

名詞/ク活用形容詞「なし」連体形/名詞/格助詞/名詞/格助詞/名詞/
あるじ/なき/庭/の/ちぐさ/の/はなざかり

副詞/係助詞/名詞/係助詞/シク活用形容詞「悲し」の連体形/
いかばかり/かは/あき/は/かなしき