和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

冬の和歌 今年もまた終わりだと思うと、過ぎていった日々がたまらなく惜しく思われます ― 今年また暮れぬと思へばいまさらに過ぎし月日の惜しくもあるかな

  百首歌たてまつりし時 
今年また暮れぬと思へばいまさらに過ぎし月日の惜しくもあるかな
   (風雅集・冬歌・関白右大臣・896)

 

現代語訳

  百首歌を献上したとき(詠みました歌)
今年もまた暮れてゆくと思えば、今さらの事ながら、過ぎた一日一日が名残惜しく思われるものだよ。 

 

内容解説

年末になりました。歳末セールのせいでしょうか、年末特番のせいでしょうか、ひととせが過ぎてゆくという感慨は趣深いものがあります。別に年末でなくっても一日一日はいつだって同じように過ぎていくものですが、年末となると、特に感慨もなく過ぎ去っていったその一日一日が何とも名残惜しく思えてくるものだ、という歌です。

 

月日はいつも同じように過ぎて行って、そのたびに感慨にふけるほど暇ではなくて、でも年末になったと聞けばそのせわしなさの中にふと一年を振り返る。一年を区切るから振り返るのか、振り返るために一年を区切るのか、区切られた時間は人にものを思わせる。

 

上の句で一年が過ぎたと言い、下の句で日々が惜しいと言い、そのあいだをつなぐ「いまさらに」には、現代語と同じ、今となっては遅すぎるのに、今になってから、という意味と、今になって急に、今新たに、という意味とがあります。一日が過ぎるなんて今までまったく気にしていなかったのに、年末になって急に一日が大切なものに思われる。思い返せば過ぎていった全ての月日が同じように一度きりのものだったのだと、今さらながら。

 

 

古典文法解説

Q 「暮れぬ」と「過ぎし」の、完了/存続と過去の違い。

A 完了と過去は別物です。完了はひとつの何かが完結すること、過去は今より前の時間のことです。「食べ終わったら勉強する」と言う時の「食べ終わった」が完了です。まだ食べ終わっていない、時間では未来のこと、でも食べるという動作が完了したら、勉強する。

 

「暮れぬ」は、ですから31日を過ぎているかどうかは関係がない。年が暮れる、という一年の完結を、それはまだあと数時間か数日か先のことであっても想定している。「過ぎし」は過去です。ですから「過ぎし月日」はもう過ぎてしまった日、今日より前の日のことです。

 

受験は体力勝負ですから、きちんと食べて寝てくださいね。

 

品詞分解

名詞/副詞/ラ行下二段活用動詞「暮る」連用形/
今年/また/暮れ/

完了の助動詞「ぬ」終止形/格助詞/ハ行四段活用動詞「思ふ」已然形/
ぬ/と/思へ/

接続助詞/ナリ活用形容動詞「いまさらなり」連用形/
ば/いまさらに/

ガ行上二段活用動詞「過ぐ」連用形/過去の助動詞「き」連体形/名詞/
過ぎ/し/月日/

格助詞/シク活用形容詞「をし」連用形/係助詞/
の/惜しく/も/

ラ変動詞「あり」連体形/終助詞
ある/かな