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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

桜の和歌 空がゆっくり明るくなって、桜も紅に染まってゆく ― 時のまもえやは目かれむ桜花うつろふ山の春のあけぼの

時のまもえやは目かれむ桜花うつろふ山の春のあけぼの
   (為家集・春・藤原為家/男性・140)
  朝見花
さしのぼる日影をそへて紅の色にうつろふ花ざくらかな
   (為家集・春・藤原為家/男性・163)

 

現代語訳

ほんの一瞬でも目を離すようなことができるだろうか(いや目が離せないことだ。この)桜の花から。(朝日に照らされて)刻一刻と色合いを変えてゆく山の、春の日の明け方(の景色から)。

 

(朝日ののぼる明け方の空にほの白く浮かんでいた姿から)さしのぼる日の光を添えて(白から)紅の色に(ゆっくりと)変わってゆく桜の花であることよ。

 

内容解説

今日は2本立て。どちらも同じ藤原為家という人の、ほぼ同じ時刻の桜を詠んだ歌です。

 

刻一刻と昇る朝日沈む夕日のうつろいから目を離せなかったことがあるでしょうか。夜と昼の境目ははっきりしているようでしていない。あけがたの、いつの時間でしょうか。1首目は清少納言が「春はあけぼの」と言いきった、だんだん明るくなって紫がかった雲が白くたなびいているころです。まだ太陽は出ていないけれど空が明るくなってきてまわりが見渡せる時間帯。順番は「あかつき」「しののめ」「あけぼの」「あさぼらけ」となるそうですが、「しののめ」と「あけぼの」は混同されるとか、ほかにも「ありあけ」とか「あさまだき」とか「つとめて」とか、微細な違いがあるそうです。前回の「明け方」は「月」とともに詠まれることの多い語なので、夜の終わりのころだと思われます。それよりは少し明るくなったころの歌でしょうか。

 

で、そのあけぼのの空です。夜のあいだはまっくらで、それが群青の色を帯びて濃紺から紫へゆっくりとあかるくなってゆく。あかるくなるにつれて闇に沈んでいた桜の花がうっすらと姿を現して、空の色のうつろいをうつす。1首目はまだ空が紫がかっているころ、2首目は桜の花が紅に染まるとありますからもう少し時間がたっていると思われます。古典の桜の色は「白」です。夜の終わりのうすぐらいころは白く見えていた桜の花が、朝日に照らされて紅の色にそめられてゆく。きれいな朝焼けだったのでしょうか。朝焼けは夕焼けよりも黄色っぽいように思いますが、夕焼けのように真っ赤に染まるイメージではなくて淡く染められてゆく感じなのかもしれません。

 

「うつろふ」ですからこれも一定の色ではなくて、日が昇るにつれてほんのりと色合いを変えてゆく。朝日夕日の昇り沈みは色の移り変わりがはっきりわかるほど早くはなくて、でもひとつの色を心ゆくまで楽しめるほど遅くはなくて、ながめているうちに昼の景色に、いつもの景色になってしまう。

 

うつろう景色の一瞬一瞬がそれぞれにきれいで、その移り変わりがまたきれいで、でもそのひとつひとつが過ぎ去るのが惜しくて目が離せない桜の季節。

 

花の和歌

桜が散って、わたしはひとり取り残される ― ながらへて生けらばのちの春とだに契らぬさきに花の散りぬる

花の鏡となる水は ― 年をへて花の鏡となる水は散りかかるをや曇るといふらむ

花だけが咲く秋の庭 ― あるじなき庭の千草の花盛りいかばかりかは秋は悲しき

 

古典文法解説

Q 「えやは目かれむ」を品詞分解せよ。ついでに文法的に説明せよ。

A 品詞分解せよ。です。

古文がものすごく得意で大好きで古典文法はほとんど覚えています! という方は自力で挑戦してみてください。古文の成績は普通かな、もしくはだいっきらいだ! という方は考えないで解説を見てください。最初から答えが決まっている問題に関しては、自分が好きなことと得意なことは実力以上の問題を解いても達成感があります。でも苦手なこと嫌いなことはさっさと答えを見て解説を熟読した方が早く身につきます。苦手科目だからこそ実力以上の問題を、という志はすばらしいですが、努力に比例して得意になるか、反比例して嫌いになるか、後者に転ぶ可能性があるからです。自分は答えのない問題に挑むのだ、という方は、焦らなくても必ずそういう問題は降りかかってきます。

 

さて、そろそろ解説を。
もうね、何が難しいって、このブログではいつも品詞分解は上から考えるのですと言っているのですが、まず「えやは」がどこで切れるかわかんないのですよ。そんでもって「目かれ/む」なのか、「目/かれ/む」なのかもわかんないのです。こういう時はどうするか。こういうときもまずは古語辞典を引きます。上から引きます。「え」から引いて、引けるところまで引きます。「え」をひきましょう。10個くらい「え」の項目があります。よくわかりません。あきらめましょう。

 

つぎ、「えや」をひきます。ありました。副詞の「え」と、係助詞の「や」で、「どうしてできるだろうか。」「どうして~できようか(いや、できない)」とあります。やったあ。もう一歩、引けるところまで引きます。「えやは」があります。副詞「え」、係助詞「や」、係助詞「は」があります。それです。副詞の「え」は打消をともなって不可能を表す、のは有名ですが、反語を伴って不可能を表すこともあるのです。「え/や/は」はそれぞれ別の言葉ですが、「えやは」のフレーズで使われることが多いので、辞書でも一項目に挙げているのです。

 

つぎ、「目かれむ」。漢字に直せるでしょうか。「目離れむ」です。「はなれる」という意味で「かる」という言葉があります。「人目も草もかれむと思へば」は「人目も離る」と「草も枯る」の掛詞だと習いましたね。「目かる」は「目が離れる」という意味になります。ここまでくれば、「む」は推量の助動詞です。「かる」は下二段活用動詞。「かれ」は未然形か連用形。未然形につく「む」といえば推量の助動詞です。

 

Q 自動詞「目離る」をどう訳すか。

A ちょっと、悩みました。「離る」は自動詞ですから、「離れる」という意味であって「離す」という意味ではありません。でも、現代語に「目を離す」という言い方はあっても「目が離れる」という言い方はありません。桜から目を離す、見ないで目をそらせる、という同じ意味なのですが、厳密に訳せば「ほんの一瞬でも目が離れようか。(いや離れない)」になります。ただ、現代語訳としては不自然になります。

 

品詞分解

名詞/格助詞/副詞/係助詞/係助詞/
時/の/ま/も/え/や/は/

ラ行下二段活用動詞「目かる」未然形/推量の助動詞「む」連体形/
目かれ/む/

名詞/ハ行四段活用動詞「うつろふ」連体形/名詞/格助詞/
桜花/うつろふ/山/の/

名詞/格助詞/名詞
はる/の/あけぼの