恋の和歌 A君はBさんが好きでBさんはC君が好きでどうにもならない ― 我を思ふ人をおもはぬむくいにや我が思ふ人の我をおもはぬ
我を思ふ人を思はぬむくいにや我が思ふ人の我をおもはぬ
(古今集・雑体・俳諧歌・題しらず・読人知らず・1041)
現代語訳
私を愛してくれた人を(私が)愛さない報いなのだろうか、私の愛している人が私を愛してくれない(のは)。
内容解説
何という三角関係。誰が男で誰が女だかわかりませんが、A→B→Cという順番で好き→ なんでしょう。
詠歌主体はBですね。AがBに告白したけれどBはお断りした。だってBはCが好きだから、Aには興味がない。そんでもってBはCに告白した。そしたらCにお断りされた。そうなってはじめてBはAをふった罪深さに気がついた。あーあ。小説だと王道な感じがしますが平安時代でも王道だったんでしょうか。「題しらず」「読人知らず」ですから、詠まれた状況も詠んだ状況も不明です。特定の誰かと誰かの恋愛、というわけではなく、やっぱり平安時代にもよくあることだったんでしょうか。
「むくい」は仏教用語です。因果応報といって、自分がしたことは必ず自分に返ってくるという思想です。罪だ罰だという話ではなくて、恋愛の不条理が巡り巡って自分も同じ目にあっている、というくらいの歌ではないかと思います。この歌が『古今集』の恋歌であれば真剣に悩んでいる歌だと解釈するのですが、この歌は雑体の俳諧歌(ひかいか)として扱われています。おふざけ、戯れの歌という意味で、「むくひにや」という言葉を蝶番に「我」「人」「思ふ」を反転させて遊んでいる雰囲気です。
「C先輩が冷たい…」「あんただって、こないだA君ふったじゃん。いっしょだよいっしょ笑」「でもあたしは本気でC先輩が好きなの!」「そりゃA君だってそうでしょ。いいじゃんA君ちょっと暗いけどいいヤツだよ? つきあえば?」「やだ!」みたいな。好きな人が好きになってくれるシステムだったらよかったのにね。
うまくいかない和歌
朝起きたくない、仕事に行きたくない日のこと ― 起きて今朝また何事をいとなまんこの夜あけぬとからす鳴くなり
この世のことは、思い通りにならない ― はかなさを恨みもはてじさくら花うき世はたれも心ならねば
夢ならば、逢わなければよかった ― 夢よ夢恋しき人にあひ見すなさめてののちにわびしかりけり
古典文法解説
Q にや
A 「に」の識別の問題です。「にや」には、断定の助動詞「なり」の連用形+疑問の係助詞「や」、である場合と、格助詞「に」+疑問の係助詞「や」、である場合があり、格助詞「に」+疑問の係助詞「や」、の場合は場所や時に関して疑問を呈する用法です。
断定の「に」も、格助詞の「に」も、体言・活用語の連体形に接続するのでいまいち見分けが難しいのですが、その直前の言葉に「~である」をつけることができれば断定、「時・事」をつけることができれば格助詞、と考えてください。「むくひ」に「~である」をつければ「むくいである」。「むくい」に「時・事」をつければ「むくいの時」「むくいの事」。断定ですね。
ついでに、「や」の係り結びで最後の「おもはぬ」の「ぬ」が連体形になっています。
品詞分解
名詞/格助詞/ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形/名詞/
我/を/思ふ/人/
格助詞/ハ行四段活用動詞「思ふ」未然形/
を/思は/
打消の助動詞「ず」連体形/名詞/断定の助動詞「なり」連用形/
ぬ/むくい/に/
係助詞/名詞/格助詞/ハ行四段活用動詞「思ふ」連体形/
や/我/が/思ふ/
名詞/格助詞/名詞/格助詞/ハ行四段活用動詞「おもふ」未然形/
人/の/我/を/おもは/
打消の助動詞「ず」連体形
ぬ