海の和歌 夕べの波間に舟がゆれる ― 夕潮のさすにまかせてみなと江のあしまにうかぶあまのすて舟
夕潮のさすにまかせてみなと江の葦間にうかぶあまのすて舟
(玉葉集・雑二・題しらず・藤原頼景・2104)
現代語訳
夕べの潮が満ちるにまかせて港の葦の間に浮かんでいる海士の捨て舟。
内容解説
夕べの海の情景です。おだやかな、静かな波間に夕方の光がみちて、潮があたりをひたしてゆく。いつから捨てられているのでしょうか、ともづなで結わえられていない古い舟が潮の満ちるまま風の吹くままにゆれ、波はちらちらと夕日をうつし舟のまわりに波紋が丸く広がってゆく。
古ぼけた舟でしょう。漁師の舟ですからさほど大きなものではない。それでも昔はたくさんの貝や魚や海藻をあふれるほどに積んでいた。大漁の日も、寂しい日もあったでしょう。海が荒れて厳しい日に無理をしたことがあったかもしれません。いくつものぶつけた跡、削れた跡、ひび割れた跡があって、でもそれはずっと昔のことで、今はただ静かに朽ちて海の底へ帰る日を待っている。それも遠い先のことではない。そのつかの間の休息の時間を金色の夕日が照らしだしている。
印象派の絵画のような、夕暮れの一枚。
水の上の和歌
花の鏡となる水は ― 年をへて花の鏡となる水は散りかかるをや曇るといふらむ
はるかな夏の海 ― 潮満てば野島が崎のさゆり葉に浪こす風の吹かぬ日ぞなき
夜の清水に月が映る ― さらぬだに光涼しき夏の夜の月を清水にやどしてぞみる
古典文法解説
Q 「さす」は掛詞である。
A 潮が満ちてくるという意味の「さす」と、棹を「さす」の両方の意味がかかっています。
品詞分解
名詞/格助詞/サ行四段活用動詞「さす」連体形/格助詞/
夕潮/の/さす/に/
サ行下二段活用「まかす」連用形/接続助詞/名詞/格助詞/
まかせ/て/みなと江/の/
名詞/格助詞/バ行四段活用動詞「うかぶ」連体形/名詞/
あしま/に/うかぶ/あま/
格助詞/名詞
の/すて舟