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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

夏の和歌 沢の水に星がうつっているかと思ったら蛍でしたよ ― 沢水に空なる星のうつるかと見ゆるはよはの蛍なりけり

  宇治前太政大臣卅講ののち歌合し侍りけるに蛍を詠める
沢水に空なる星のうつるかと見ゆるはよはの蛍なりけり
    (後拾遺集・夏・藤原良経・217)

 

現代語訳

沢の水に空の星が映っているかと見えたのは夜半に輝く蛍でしたよ。

 

内容解説

蛍、見たことがあるでしょうか。私はずいぶんちいさなころに見たきりなので、水にうつっているところを見たかどうかいまいち思い出せないのですが、呼吸のリズムのようにゆっくりと明滅を繰り返していたのを覚えています。

 

星と蛍ですから夜ですね。平安時代の夜ですから現代ほど明るくないというより真っ暗でしょう。日はとうに暮れて流れる水の音だけが聞こえていて、風は多少すずしくなっている。空には星がまたたいていて、耳も肌も研ぎ澄まされて夜の気配をひろっているなかに沢の水がふわりと光った。光るものなんてないはずなのに空の星がうつったのかとのぞきこんだら蛍でした、という、あまりひねりのないというか、まあ単純な歌です。

 

夏の夜はこれくらい単純でよいのではないでしょうか。昼は暑かったし、夜はすごしやすいし、すぐに明けてしまうし、涼やかな風と蛍を愛でながら寝落ちするというのも。

 

水面の和歌

ガラス越しの波 ― 春風に下ゆく波の数みえて残るともなきうす氷かな 

薄氷に浮かぶ泡 ― 消えかへり岩間にまよふ水の泡のしばし宿借るうす氷かな 

夜の清水に月がうつる ― さらぬだに光涼しき夏の夜の月を清水にやどしてぞみる 

 

 

古典文法説明

Q 「空なる」の「なる」は断定の助動詞、「蛍なりけり」の「なり」も断定の助動詞だけれど意味が違う。

A 断定の「なり」は存在を意味することがあります。そうだっけ? という方は文法の教科書を見てください。場所を示す名詞について「~にいる」「~にある」という意味になる、と書かれています。「蛍なり」は場所ではないので「蛍である」と断定で解釈します。

 

付け加えておくと、「なり」には他にもいくつか「紛らわしい語」があります。ということを思い出せるかどうかが文法の得点を左右します。「「なり」? 「なり」ってどの「なり」だっけ。見分け方があったはずだ」と思えるかどうかです。文法の教科書の後ろのあたりに「紛らわしい語の一覧」みたいなページがあるんじゃないでしょうか。そこをよく復習しておきましょう。

 

Q 「見ゆる」は上一段活用ではない。

A 上一段活用は「見る」です。上一段活用の語は「着る・見る・似る・射る・干る・居る」などと覚えましたね。覚えたからには答えたくなるものですが、残念ながら「見る」と「見ゆる」は違います。文法の教科書に「奈良時代の助動詞活用表」とか何とか、ないでしょうか。自発・受身・可能の「ゆ」「らゆ」という助動詞が載っているかと思うのですが。「見ゆる」は、上一段活用動詞「見る」未然形に、この自発の助動詞「ゆ」がくっついてできた、ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連体形です。

 

「見ゆ」の文法説明はこちら→yamato-uta.hatenablog.jp

 

 

品詞分解

名詞/格助詞/名詞/断定の助動詞「なり」連体形/名詞/
沢水/に/空/なる/星/

格助詞/ラ行四段活用動詞「うつる」終止形/係助詞/格助詞/
の/うつる/か/と/

ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」連体形/係助詞/名詞/格助詞/
見ゆる/は/よは/の/

名詞/断定の助動詞「なり」連用形/過去の助動詞「けり」終止形
蛍/なり/けり