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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

恋の和歌 心、恋、たったひとつ ― ふたつなき心は君におきつるをまたほどもなく恋しきやなぞ

  本院の東の対の君にまかりかよひて、あしたに 
ふたつなき心は君におきつるをまたほどもなく恋しきやなぞ
    (拾遺集・恋二・大納言源きよかげ・721)

 

現代語訳

ふたつとない(私の)心は(あなたを愛するあまりに)あなたのもとに置いてきましたのに、(離れたら)またすぐにあなたへの思いにとらわれるのはなぜでしょうか。

 

内容解説

みをつくしても逢はんとぞ思ふ、と思っていた相手に逢えたのです。逢えて、あまりにうれしくて、その人のもとにわたしの心のすべてを奪われて置いてきたと思ったのに、またほどもなく、あなたを恋しいと思うのはどうしてだろう。まだわたしに心が残っているからだろうか。すべて、かけらも残さずにすべて、あなたに置いてきたと思ったのに。

 

発想がですね、すごいなあと。気の狂うような恋をして、心のすべてを捧げ尽くしてからっぽになったはずの身のうちになお湧きあがる想いをもうどうしようもない。逢えるまでのながいあいだ、きっといろいろなことを思ったのです。その人のこと、自分のこと、その人と自分のこれからのこと、恋をするということ。心のうちにあふれんばかりの想いがその人と逢ったとたんに、もうあふれるどころではない。あふれ尽くしたと思った心が、またほどもなく、あなたに満たされてゆく。

 

「ふたつなき心」です。あなただけを想っている。ただあなただけを、まっすぐに。

 

 

古典文法解説

Q 「置きつる」の「る」を文法的に説明せよ。

A と聞かれたときに、「る」だけ辞書をひいてはいけません。上から解釈するのです。「置き」というのは「置く」なんじゃないかということはわかりますね。そしたら辞書をひくのです。「置き」は「置く」の何形でしょう?
そしたら「つ」とは何かを考えます。とにかく上から解釈するのです。「置き」は何形でしょう。何形に接続する「つ」はなんでしょう?
そしたら「る」とは何かを考えます。「つ」に接続する「る」があるでしょうか。「る」の下にある「を」は何形に接続するか。

 

同じ考え方で「悲しき」の「き」とは何かも考えてみてくださいな。

 

品詞分解

名詞/格助詞/名詞/格助詞/名詞/格助詞/名詞/格助詞/
  本院/の/東/の/対/の/君/に/

  ハ行四段活用動詞「まかりかよふ」連用形/接続助詞/名詞/格助詞/
  まかりかよひ/て、/あした/に/ 

ク活用形容詞「ふたつなし」連体形/名詞/係助詞/
ふたつなき/心/は/

名詞/格助詞/カ行四段活用動詞「置く」連用形/完了の助動詞「つ」連体形/
君/に/おき/つる/

格助詞/名詞/名詞/係助詞/ク活用形容詞「なし」連用形/
を/また/ほど/も/なく/

シク活用形容詞「恋し」連体形/係助詞/連語
恋しき/や/なぞ