和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

夏の和歌 夏の午後、まどろみの午後 ― 妹とわれ寝屋の風戸に昼寝して日たかき夏のかげをすぐさむ

妹とわれ寝屋の風戸に昼寝して日たかき夏のかげをすぐさむ
  (好忠集・六月終はり・曽祢好忠/男性・178・10世紀)
 

現代語訳

(暑い日は)妻とわたしと寝室の(涼しい)風が通る戸の近くで昼寝をして、(だらだらと)日の高いあいだの夏の暑さをやりすごそう。(他に何もやる気がおきないのだから)。

 

内容解説

「妹(いも)」は男性から見て親しい女性をいう言葉です。奥さんだか彼女だか存じませんが、このだらけ感は奥さんではないでしょうか。もう何もやる気がおきないから、ふたりして風の通る戸のそばに寝転びごろごろだらだらして一日をやりすごすのだそうです。まあ、暑いですからね。古典世界の夏は6月まで。六月終わりですから夏もそろそろ終わろうという残暑のころ。といってもまだ暑い上に連日の夏日で疲れ果てている。麦茶に風鈴、はないでしょうが、千年前の日本の夏の日の午後です。

 

「風戸(かざと)」は風の通る戸口。そのままです。「かげ」は「光」の事ですが、夏の日の光では伝わらないと思って「暑さ」と訳しました。「すぐさむ」の「む」は自分のことですから意志の「む」ですが、誰に向かって宣言しているんでしょう。まあ、暑いですからね。夏の過ごし方としてこれ以上のものはありません。一緒にごろごろしてくれる奥さんもすてきです。お盆休みという習慣はこの時代にはありませんが、ほんと、和歌は日本人のココロのふるさと。

 

 

 

古典文法解説

 

Q 「昼寝す」ですか。「昼寝/す」ですか。

A 文法の教科書のサ変動詞のページを開いてください。サ変動詞「す」は「愛す」「死す」といった複合動詞を作る、と書かれています。2語がひとつにくっつくことがある、という意味です。ですから2語で解釈しても1語で解釈してもどちらでもよろしい。

 

Q 「すぐさむ」の「む」はなんですか。

A 意志、です。「過ごそう」と訳します。
「む」ときたら、①意志―わたしは~しよう。 ②適当―あなた~したほうがいいよ ③勧誘―あなた~しませんか ④推量―あいつは~するだろう ⑤仮定―~するとしたら ⑥婉曲―~ような の6つです。文法の教科書を開いてください。助動詞「む」のページがあります。開いたら説明と一緒に例文を見てくださいね。例文ごと覚えておくと次回に応用が利きます。
①なら自分のこと、一人称。②③ならあなたのこと、二人称。④ならあいつのこと、三人称。⑤なら、もし~するとしたら。いずれも定まっていない未来をどう動かすかを示す言葉です。
⑥「む」が連体形なら婉曲です。はっきりと指し示さずぼかしながら、~のようなもの。と示します。定めずに示すという意味では①~⑤と通じるニュアンスがあります。

 

品詞分解

名詞/格助詞/名詞/名詞/格助詞/名詞/格助詞/名詞/
妹/と/われ/寝屋/の/かざと/に/昼寝/

サ変動詞「する」連用形/接続助詞/ク活用形容詞「日たかし」連体形/
し/て/日たかき/

名詞/格助詞/名詞/接続助詞/サ行四段活用動詞「すぐす」未然形/
夏/の/かげ/を/すぐさ/

意志の助動詞「む」終止形