和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

冬の和歌 冬の朝はおふとんから出ないぞ! ― 冬さむみ霜さゆる夜も明けぬれどあさぶすまこそぬがれざりけれ

冬さむみ霜さゆる夜も明けぬれどあさぶすまこそぬがれざりけれ
   (永久百首・冬十二首・衾・顕仲・386)

現代語訳

冬の寒さのせいで霜が冴え冴えと冷える夜も(ようやく)明け(て、少しはあたたかくなっ)たけれど、朝のふとんを脱ぐなんてことは絶対にできないのだ。

 

内容解説

だよねー。ですよねー。冬の朝は起きられないの、わたしだけじゃなかった! 作者は源顕仲(みなもとのあきなか)という人です。神祇伯顕仲(じんぎはくあきなか)。歌人としては超有名人です。ちょっとした聖人なみ。その顕仲でも起きられなかったかー。

 

「寒み」は「寒いので」という意味です。「深み」で「深いので」、「早み」で「早いので」、といろいろに使われる接尾語。「あさぶすま」は「麻衾」。「麻」に「朝」が掛詞になっているのでしょう。和歌には用例の少ない語です。「こそ~けれ」と係り結びで強調されていますから、もう絶対無理、誰がなんと言おうと何がどうであろうと絶対起きられないんだぞという強い強い宣言です。

 

和歌とかね、日本人の心のふるさとですからね、起きられなくても何も恥じることないです。

 

起きない和歌

朝起きたくない、仕事に行きたくない日のこと ― 起きて今朝また何事をいとなまんこの夜あけぬとからす鳴くなり 

夏の午後、まどろみの午後 ー 妹とわれ寝屋の風戸に昼寝して日たかき夏のかげをすぐさむ

 夏の夕暮れ、まどろみの時 ー 入り日さしひぐらしの音を聞くからにまだきねぶたき夏の夕暮れ

 

古典文法説明

Q 「明けぬれど」の「れ」を文法的に説明せよ。

A 受験生の皆さんは寝ている場合じゃありません。わたしが出題するなら絶対ここです。「れ」を説明せよと言われて「れ」を一語だと思ってはいけません。これは「ぬれ」という語の一部です。こういうときは、とにかく上から切ってゆくに限ります。上は「明け~」です。「夜も明けぬれど」とあれば、「夜/も/明けぬれど」と切れることはわかりますね。「明けぬれど」はどこで切れるか。「明け」でまず切れます。…なんで? という方は古語辞典を引きましょう。「明く」とか「明ける」とか、いろいろ引いてみましょう。古語の場合は「明く」で立項されているはずです。と、ご自分で辞書を引いてくださいな。で、その「明く」が「明けぬ」になっている。下に「ぬ」がついたために、「明く」が「明け」になったのです。

 

では、この「ぬ」はなんでしょうか。これも古語辞典を引きましょう。文法の教科書の、紛らわしい語の一覧のページでも構いません。3つあります。「ぬ」ときたら完了の「ぬ」の終止形、打消しの「ぬ」の連体形、「死ぬ」「去ぬ」の活用語尾、と覚えていますね。覚えていない方は覚えてください。これだけで1点取れます。見分け方は、「ぬ」の上の言葉です。
①完了の「ぬ」なら上の言葉が連用形。
②打消しの「ぬ」なら上の言葉が未然形。
③「死ぬ」「去ぬ」の活用語尾なら、上に「死」か「去」があります。
「死」「去」はありませんから③ではありません。①か②かは、「明け」が連用形か未然形かで見分けるのですが、さて、「ぬ」が完了の「ぬ」の終止形か、打消しの「ぬ」の連体形だとしたら、「ぬ」の後に来る「れ」は、終止形か連体形に接続する語だということになります。「ぬ」と「れ」がそれぞれ別の語であり、接続していると考えるなら、「ぬ」は終止形か連体形であり、「れ」は終止形か連体形に接続する語である、と言えるわけです。このあたりでついてこられなくなった方、文法の教科書を見直して、何としてでもついてきてください。で、終止形か連体形に接続する「れ」があるでしょうか。

 

ありません。可能の「れ」なら未然形に、完了の「れ」ならサ変の未然形と四段の命令形につきます。「ぬ」に接続する「れ」はないのです。よって、「ぬ」と「れ」はふたつで一語であると考えます。これは完了の助動詞「ぬ」の已然形「ぬれ」です。

 

検算をしましょう。「ぬれ」の後には「ど」があります。「ど」は接続助詞。已然形に接続します。「ぬれ」は已然形ですから、これで正解。

 

品詞分解

名詞/ク活用形容詞「寒し」語幹/接尾語/名詞/
冬/さむ/み/霜/

ヤ行下二段活用動詞「さゆ」連体形/名詞/係助詞/
さゆる/夜/も/

カ行下二段活用動詞「明く」連用形/完了の助動詞「ぬ」已然形/
明け/ぬれ/

接続助詞/名詞/係助詞/ガ行四段活用動詞「ぬぐ」未然形/
ど/あさぶすま/こそ/ぬが/

可能の助動詞「る」未然形/打消しの助動詞「ず」連用形/
れ/ざり/

過去の助動詞「けり」已然形
けれ