和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

秋の和歌 秋の色の、面影だけでも残るでしょうか - 心とめて草木の色もながめおかん面かげにだに秋や残ると

  暮秋十首歌たてまつりし時 
心とめて草木の色もながめおかん面かげにだに秋や残ると
   (玉葉集・秋・京極為兼/男性・832・14世紀) 

 

現代語訳

  暮秋の十首歌を献上した時(に詠んだ歌)

(木々は紅葉に黄葉に、野の草は色とりどりに秋を盛りと咲いている。この景色に)心をとめて草木の色を目に焼きつけておこう。(まぶたの裏に)せめて面影にだけでも秋が残るだろうかと。

 

内容解説

撮影に夢中になっていると自分の目で見る感動を味わえませんよというお説教に引用できそうな歌ですが、写真のない時代、録音録画機のない時代が本当にあって、言われてみればその時代の人々はいまの私とは比べものにならないほど真剣に目に映るものを見ていたのだと思います。なにしろ秋が過ぎたら次の秋まで秋は来ない。秋を見ようと思うならいま目の前にある景色を目に焼きつけておくしかないと思って、秋の景色を見つめている。

 

「心とめて」、目の前にそよぐ野の草も山の木々も、あれもこれも覚えておきたい。秋を構成する全ての紅葉、私が今いる秋という季節をそのまま永遠にとどめておきたい。そう思っている間に刻一刻と秋の季節は過ぎ去ってゆく。そのかけらのひとつひとつを愛おしむように瞳の中におさめてゆく。

 

悲壮感は、あまり感じられません。秋が過ぎ去るということも、それをとめられないということもわかった上で目の前の美しさをひたすらに味わい尽くそうとする。それは充溢した生の時間なのかもしれません。

 

古典文法解説

Q 「も」

A 係助詞です。類例ではなくて、強意と解釈しました。「プリンも好きだよー、パフェも好きだけど」と言ったときの「も」は類例です。あれも、これも、の「も」。そうではなくて、ひとつだけ強調するときにも「も」を使います。「惜しくも敗退した」と言うときの「も」は強意です。惜しいし悔しいし残念だし、と類例を並べたいのではなくて、惜しいことだった、と強調して言う用法です。「草木の色も、空の色も、海の色も」とは解釈せず、「この草木の色を」と強調した表現です。

 

Q 「だに」

A 「せめて、~だけでも」と訳します。せめて面影だけでも残ってくれないかな、と。

 

品詞分解

  名詞/ラ行四段活用動詞「たてまつる」連用形/

  暮秋十首歌/たてまつり/

  過去の助動詞「き」連体形/名詞/
  し/時/ 

名詞/マ行下二段活用動詞「とめる」連用形/接続助詞/名詞/
心/とめ/て/草木/

格助詞/名詞/係助詞/カ行四段活用動詞「ながめおく」未然形/
の/色/も/ながめおか/

意志の助動詞「む」終止形/名詞/格助詞/副助詞/名詞/係助詞/
ん/面かげ/に/だに/秋/や/

ラ行四段活用動詞「残る」終止形/格助詞
残る/と