恋の和歌 心、恋、ばらばらに ― きみ恋ふる心は千々にくだくれどひとつもうせぬものにぞありける
きみ恋ふる心は千々にくだくれどひとつもうせぬものにぞありける
(後拾遺集・恋四・題不知・和泉式部・801)
現代語訳
あなたを恋しいと思う(のに、それがかなわないつらさに私の)心は砕けてばらばらになってしまったけれど、(だからといって、その心のかけらは)ひとつも失せることなく私を苦しめ続けるのです。
内容解説
あまりに好きで、好きで心が壊れそうで、壊れて散ってなくなってしまったら忘れられるかと思ったのに、ただのひとつもなくなってくれずにわたしを苦しめ続ける。
もう心はとうに壊れているのです。壊れてしまって、そのばらばらになった心のかけらをじっと見つめて、痛みも感じていないのかもしれません。上の句の「心は千々にくだくれど」の部分はばらばらになった心の亀裂を詠んでいるのに、下の句の「ひとつもうせぬものにぞありける」という部分にはその心を外から観察しているかのような冷静さがある。きのう今日に始まった恋ではないでしょう。泣いて嘆いて恨んで苦しんで思いの限りを尽くしてそれでもどうにもならなくて壊れてしまった自分の心をふしぎな静かさで詠んでいる。
これ以上なにをしてもあの人が振り向いてくれないことはわかっているし、これ以上なにをしてもあの人を思いきることができないこともわかっている。わかっていて、でもどうしようもない思いを抱えて、それでも、あなたが好きです。
恋の和歌
同じように愛している? ― はかなくておなじ心になりにしを思ふがごとは思ふらんやぞ
夢ならば、逢わなければよかった ― 夢よ夢恋しき人にあひ見すなさめてののちにわびしかりけり
雨のしずくが落ちるように、あなたを思い続けています ― 雨やまぬ軒の玉水かずしらず恋しき事のまさるころかな
古典文法解説
Q 「あり」はどうしてラ変なんですか。
A いや、どうしてと聞かれても困るのですが、文法はいつも後付けなのです。現に使われている/使われていた言葉を後から分類して説明したものが文法であって、べつに試験の点数をばらけさせるために変格活用があるわけではないのです。わたしとしては、「あり」が動詞で「なし」が形容詞なの、おもしろいと思います。
品詞分解
名詞/ハ行下二段活用動詞「恋ふ」連体形/名詞/係助詞/
きみ/恋ふる/心/は/
名詞/格助詞/ラ行下二段活用動詞「くだくる」已然形/
千々/に/くだくれ/
接続助詞/名詞/係助詞/サ行下二段活用動詞「うす」未然形/
ど/ひとつ/も/うせ/
打消の助動詞「ぬ」連体形/名詞/断定の助動詞「なり」連用形/
ぬ/もの/に/
係助詞/ラ変動詞「あり」連用形/過去の助動詞「けり」連体形
ぞ/あり/ける