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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

桜の和歌 春のおわりの日 ― 何もせで花を見つつぞ暮らしつる今日をし春のかぎりと思へば

何もせで花を見つつぞ暮らしつる今日をし春のかぎりと思へば
     (躬恒集・屏風・凡河内躬恒/男性・407・9世紀)

 

現代語訳

何もせず(ただ)花だけを見て過ごしています。今日がこの春の最後の一日だと思えばこそ。

 

内容解説

そして、躬恒に戻る。いいなあ。「なにもせで花を見つつぞ暮らしつる」。ほんと、いいなあ。うらやましい。今日で春も終わりだから、もう何もしないで一日中花を眺めて暮らすのだそうです。別にさぼっているわけではなくて、愛した春が、愛した桜が今日を限りと終わることに心の全てを奪われてもう何も手につかないのです。さきに躬恒は「花の色香散りなむのちは何にかはせん」なんて言っていましたが、おなじ躬恒が散りゆく花の最期を見届けて、もう何も手につかない。これほどまでに桜を愛した。

ひたすらに花に心を奪われて、花を求めて終わりの時まで見届けた躬恒の春も、今日で終わり。

 

本来、これは旧暦三月末日の歌です。古文世界の季節は春が旧暦の1,2,3月、夏が4,5,6月、秋が7,8,9月、冬が10,11,12月とわかれていて、春の終わりの歌だから三月末日。三月尽(さんがつじん)という、春の終わりを惜しむ歌です。ですから新暦4月末である今日に掲載するのはなんなのですが、現代の感覚から見て新暦3月末に春の終わりではないだろうと思って、今日の掲載にしました。といって、今年の三月尽、旧暦三月二十九日は新暦5月17日だそうですが、5月17日に春の終わりと言われてもね、と思って4月末日。

 

これで春の歌は終わりです。夏は、五月雨と恋の季節。

 

 

古典文法解説

サ変動詞と打消接続の「で」・係助詞「ぞ」・強意の「し」・字余り

 

Q サ変動詞「せ」と打消接続の「で」

A 「しないで」の意味です。サ変動詞「す」の未然形に打消接続の「で」がついて、「する」を打消して、「しない」+「で」になります。打消しや逆接の意味を持つ接続助詞は文法の教科書でチェックしておいてください。ここを踏み違えると文脈がどんどんずれていきます。

 

Q 係助詞「ぞ」と完了の助動詞「つ」の連体形

A 「見ながら、暮らしたんだよ!」という強意です。係助詞、と言われたら全て挙げることができるでしょうか。そのなかでも「ぞ・なむ・や・やは・か・かは」は文末の活用語を連体形にします。「こそ」なら已然形です。これはほとんどの先生が見つけ次第テストに出します、というほどでもないですが、覚えていれば必ず得点源になります。

 

Q 強意の副助詞「し」

A これは、みわけにくいと思います。文法の教科書の、まぎらわしい語の一覧を見てください。サ変動詞と、過去の助動詞と、副助詞の「し」が載っていると思います。直前の言葉が接続助詞の「を」ですから、過去の助動詞ではないですね。過去の助動詞「き」は接続助詞「を」には接続しません。サ変動詞だと「今日をして、春の最後の一日だと思えば」と訳さなくてはなりません。「今日をする」では意味が通りませんから、「今日を!」という強意の副助詞と解釈します。「し」の見分け方については、副助詞であることを証明するより、過去の助動詞でもサ変動詞でもないことを証明するほうがやりやすいと思います。

 

Q 字余り

A 「かぎりとおもへば」と最後が字余りになっています。勢い余った、くらいのニュアンスです。

 

品詞分解

名詞/係助詞/サ変動詞「す」の未然形/接続助詞/名詞/格助詞/
なに/も/せ/で/花/を/

マ行上一段活用動詞「見る」の連用形/接続助詞/係助詞/サ行四段活用動詞「くらす」の終止形/
見/つつ/ぞ/暮らし/

完了の助動詞「つ」連体形/名詞/格助詞/副助詞/名詞/格助詞/名詞/格助詞/
つる/今日/を/し/春/の/かぎり/と/

ハ行四段活用動詞「おもふ」の已然形/接続助詞
思へ/ば