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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

雪の和歌 あなたでなくて、誰のことを想いましょうか ― 君ならでたれをか訪はむ雪のうちに思ひいづべき人しなければ

  十一月四日に、雪のはじめて降り侍りしに、
  中将隆房のもとへ申しつかはしし
君ならでたれをか訪はむ雪のうちに思ひいづべき人しなければ
               (有房集・244・12世紀)

 

現代語訳

  11月4日に、雪がはじめて降りました時に、
  中将隆房のもとへ申し上げるとお送りした(歌)
あなたでなくて、いったい誰のもとを訪れましょうか。(いいえ、あなた以外には思いつきません。)雪の降るなか(この雪の喜びをわかちあいたいと)心に浮かぶ人は他にはいないのですから。

 

内容解説

11月4日の歌を本日ご紹介するのもどうかと思いますが、記録的暖冬でしたから、お許しを。

 

雪で電車が大混乱というのは現代の話ですが、雪が降ると外出が大変なのは今に始まった話ではありません。移動手段は徒歩を除けば馬か牛車か抱っこくらいですから大変だったでしょう。この歌より以前、『古今集』と『拾遺集』に次のような歌があります。
わがやどは雪ふりしきて道もなしふみわけて訪ふ人しなければ
     (古今集・冬歌・題しらず・読人しらず・322)
山ざとは雪ふりつみて道もなし今日こむ人をあはれとは見む
     (拾遺集・冬・題しらず・平兼盛・251)
古今集』は「雪を踏み分けて訪ねてくる人もいないから、私の家の前は雪で道がなくなってしまった」。『拾遺集』は「道もないのに私を訪ねてくれる人を大切にしよう」という意味です。

雪が降ると外出がたいへん。その中をわざわざ来てくれる人は風流を解する人であり、自分のことを大切にしてくれる得がたい友人である。それがこの時代の雪に対する考え方でした。その上で有房が詠んだ歌。あなたでなくて、誰のもとを訪れましょうか。この雪の中で。

 

隆房からはこんな歌が返ってきました。
降りそむる今日の初雪よりもげにこのたまづさはめづらしきかな
             (有房集・かへし・中将・245・12世紀)
「たまづさ」は手紙の美称。有房が和歌を書いて送った手紙のことです。「めずらし」は現代語と同じ「珍しい」という意味だけでなく、「滅多になくすばらしい」という意味を持つことばです。降り始めた初雪の美しさもめったになくすばらしいもの。その雪が降った喜びよりも、あなたが私に歌を贈ってくれたこと、この初雪にあなたが私を誰よりも尊重すべき友人として想ってくれていることに深い感謝と敬愛を返したのです。
「雪月花の時、もっとも君を憶ふ」と李白がうたい、雪の時、月の時、花の時に友人をおもうこと、多くの友人の中でほかの誰でもなくあなたをおもうと告げられたこと。雪の日に届く歌。


それにしても寒くなりました。受験生の皆様も、受験生ではない皆様も、どうぞご自愛くださいませ。

 

 訪う和歌

夜の戸を開けたら、そこは梅の世界でした ―真木の戸をあけて夜深き梅が香に春のねざめをとふ人もがな

露に濡れても ― 秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜はふけぬとも

風邪をひいたのに彼氏が見舞いに来なかった話 ― 死出の山ふもとを見てぞ帰りにしつらき人よりまづ越えじとて

 

古典文法解説

Q 「誰をか問はむ」

A こういうの、フレーズで覚えてしまうと良いと思います。「か」ときたら疑問か反語、と覚えるのも大切ですが、「誰をか問はむ=誰を問おうか(いや、誰も問わない)」と覚えてしまう。「か」は係り助詞で、「む」は意思の助動詞です。係り結びで連体形になっています。意思があるので「問おう」。疑問があるので「問おうか」と訳します。

 

Q 「侍りし」「申し」「つかはしし」「人しなければ」の「し」を文法的に説明せよ。

A じつにじつに試験向けの和歌です。わからなければ、とにかく上から古語辞典を引きましょう。「はべりし」とあるから「はべ~」とひく。「はべり」にたどりついてくださいね。「はべり」の活用はどうなっているでしょうか。「はべら・はべり・はべり・はべる・はべれ・はべれ」です。なんでって、ラ行変格活用だからです。「はべりし」という活用はしない。ということは「し」は「はべり」とは別の単語だということです。「はべり」の形は「はべり」の連用形と終止形。連用形か終止形につく「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。

 

次。「申し」。これも古語辞典をひきましょう。「まうす(もうす)」にたどりついてほしいところ。活用は「まうさ・まうし・まうす・まうす・まうせ・まうせ」です。四段活用だからです。「まうし」がありますね。連用形です。ですから、この「し」はサ行四段活用動詞「申す」の連用形活用語尾です。

 

次。「つかはしし」。「し」がふたつある。これも古語辞典です。「つかはす」があるはずです。四段活用ですから「つかはさ・つかはし・つかはす・つかはす・つかはせ・つかはせ」。連用形に「つかはし」がありますね。ですから「つかはし」の「し」はサ行四段活用動詞「つかはす」の連用形活用語尾。「つかはしし」のふたつめの「し」は、連用形に接続する「し」ということになりますから、「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。

 

さいご。「人しなければ」。「人し」という言葉はありません。「しなければ」という言葉も古語にはありません。これは副助詞の「し」です。いろいろな使われ方をしますが、「物+し+~である」という形はよく見ると思います。「名に+し+負はば」なんて和歌もありました。現代に残る言い方としては「果て+し+ない」という言葉があります。

 

品詞分解

名詞/断定の助動詞「なり」未然形/接続助詞/名詞/格助詞/
君/なら/で/たれ/を/

係助詞/ハ行四段活用動詞「訪ふ」未然形/意志の助動詞「む」連体形/
か/訪は/む/

名詞/格助詞/名詞/格助詞/ダ行下二段活用動詞「思ひいづ」終止形/
雪/の/うち/に/思ひいづ/

当然の助動詞「べし」連体形/名詞/副助詞/ク活用形容詞「なし」已然形/
べき/人/し/なけれ/

接続助詞