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和歌ブログ [Japanese Waka]

国文系大学院生がひたすら和歌への愛を語る記録

夏の和歌 木の葉に雨がたたきつけられてセミの声が静かになる ― 蝉のこゑは風にみだれて吹きかへす楢の広葉に雨かかるなり

夏歌(Summer) 夏歌(Summer)-風(Wind) 夏歌(Summer)-雨(Rain) 大学受験によく出る古典文法
蝉のこゑは風にみだれて吹きかへす楢の広葉に雨かかるなり
  (風雅集・夏歌・夏の歌の中に・二品法親王尊胤・419)

 

現代語訳

(真夏の日差しが照りつける中、急に吹き下ろした冷たい風に)蝉の声は風に乱れて吹き返される。(にわかに空がかき曇ったかと思うと)ナラの広く大きな葉に(夕立の)雨がたたきつけられる音が聞える。

 

内容解説

暑いですね。夏真っ盛り、セミ真っ盛りですね。実に元気。その蝉の声が夕立の風に吹き消されたと思うと大粒の雨音に変わる。暑さから一転冷たい夕立に変わるまでの動きを捉えた歌です。じりじりと灼きつける太陽にえんえんと続く蝉の声が、ふと吹き下ろした涼風に翻り、楢の葉もまた翻り、見上げた空がにわかにかき曇ったかと思うと大粒の雨が楢の葉に叩きつけられて、あれほどうるさかった蝉の声も止んでしまった。

 

夏の炎天下にふと強い風が吹いて楢の葉がひるがえる。これは誰でも思いつくでしょう。楢の葉は広いもの、夏の木陰を作るものだからです。しかしその風に蝉の声までもが煽られてひるがえったと、ここまでの発想はなかなかでてくるものではない。その風が雨を運び、音をたてて楢の葉に打ちつける。湿った夏のにおいが蝉の声をかき消してたちこめる。乱れて吹きかえすという風の強さとその後の雨、夏の夕立は激しいもの。蝉の声に満ちていた音の世界が風と雨に打ち消されて夕立に支配されるまでのあっというまの時間の動き。リアルを突き抜けたリアリティの世界。

 

ところで、実際に雨が降ると蝉は静かになりますね。あれはなんなのでしょう。雨音に負けると判断するのでしょうか。それとも発声器官が濡れると困るのでしょうか。

 

雨の和歌

恋は春の霞のように ― おもひあまりそなたの空をながむればかすみをわけて春雨ぞふる

雨の夜に生涯をふりかえる ― 夜もすがら涙も雨もふりにけり多くの夢の昔語りに

あやめの香る雨のしずくに ― 五月雨の空なつかしきたもとかな軒のあやめの香るしづくに

 

古典文法解説

Q 「こゑ」ってなんですか。

A 声、です。ワ行の「ゑ」。文法の教科書か古語辞典に五十音表が載っていると思います。ワ行には「わゐうゑを」とあります。

 

Q 断定の助動詞「なり」と伝聞推定の助動詞「なり」。

A 活用語の連体形の下についていたら断定の「なり」です。そのほか体言・副詞・助詞にもつきます。活用語の終止形の下についていたら伝聞推定の「なり」。と思いきや、ラ変動詞「あり」「をり」「はべり」「いますがり」の連体形の後についていたらそれも伝聞推定の「なり」です。文法の教科書か古語辞典を見てください。見るときには例文も一緒に見てください。例文が載っていると思います。活用語の連体形につく、とは例えばどのような形なのかを見ておいてください。

 

で、問題はここからです。接続だけでは見分けがつかないケースがあります。四段活用動詞もしくはラ変活用動詞が上にある場合です。この「かかる/なり」の場合がそうで、四段活用動詞「かかる」は連体形と終止形が同じ「かかる」の形を取ります。ですから「かかる/なり」は上の「かかる」の活用形がわかっても「なり」を区別することができない。さてどうしましょう。

 

いろいろ見分け方はあります。撥音便の下なら伝聞推定。未然形の「なら」は「ならく」以外は伝聞推定。連用形の「なりき」「なりつ」は伝聞推定、「なりけり」「なりけむ」は断定。連体形の「なる」は助動詞が下にないときは全て伝聞推定、下にあるときは断定。係助詞「こそ」の結びの已然形は伝聞推定。

 

でもこの形はどうしようもないです。両方の訳を作ってしっくりくるほうを選んでください。伝聞推定の「なり」は「音あり」。つまり耳で聞いた判断です。「この音から判断すると、葉に雨がかかっているようだ」。断定の「なり」は「にあり」。確実に言えることに使います。「葉に雨がかかっている」。さてどちらでしょう。わからなくなってきました。当初、断定で訳したのですが、楢の葉に雨の音がしているでしょうから伝聞推定でしょうか。音を主軸に構成された歌ですから、耳で聞いたことだろうと判断しました。

 

Q 「蝉の声、葉風に乱れて」とは解釈できませんか。

A 最初「葉風」と思ったのですが、「楢の広葉」の「葉」とかぶりますからやはり接続助詞の「は」かと。 

 

品詞分解

名詞/格助詞/名詞/名詞/格助詞/
蝉/の/こゑ/葉風/に/

ラ行下二段活用動詞「みだる」連用形/接続助詞/
みだれ/て/

サ行四段活用動詞「吹きかへす」終止形/名詞/格助詞/名詞
吹きかへす/楢/の/ひろは/

接続助詞/名詞/ラ行四段活用動詞「かかる」連体形
に/雨/かかる/

伝聞推定の助動詞「なり」の終止形
なり